2020年12月17日木曜日

高速旅客鉄道建設と汚職




はじめに

 中国のインフラ建設はアジア通貨危機が起きた1997年以降、加速度的に進められてきました。金融危機に対する財政刺激策がインフラ建設だったのです。  
 しかし、中国のインフラ建設はそのあまりの規模の大きさの為、しばしば「必要量を遥かに超えており、無駄が多すぎる」と非難されてきました。しかし実際には中国という国はアメリカ合衆国と同じ規模の国土があり、人口はその4倍にも及ぶことから、批評家達の想像を遥かに超える量のインフラが必要である事は確かなのです。何より中国では7年毎に経済規模が2倍に膨らんできたのです。これはアメリカ合衆国やイギリスの様な、“通常の”成長率で穏やかに成長してきた他国とは明らかに異なる経済的条件であり、これに伴い必要となるインフラの量や建設ペースも前例のない物にならざるを得ないのです。  
 そして中国のインフラ建設の中でも他国と比べてとりわけ注目を集めるのが高速旅客鉄道の建設です。中国では所謂先進国とは違い、安い土地、労働力、耐久資本財を利用してより安く高速旅客鉄道を建設することが出来るのです。高速旅客鉄道が中国で必要とされる理由として、既存の古い鉄道が人で溢れかえってしまっていて、容量オーバーしてしまっているという問題があります。洗練された高速旅客鉄道を導入し、その代わりに不要になった古い乗客用路線を閉鎖し、そのスペースを貨物用に利用すれば、人と物の輸送効率は大きく改善するでしょう。  
 という事で今回は中国における人と物の輸送の将来を大きく左右するであろう高速旅客鉄道建設の長所と短所について、建設ラッシュに便乗して利益にありつこうとする役人達の汚職にも焦点を当てて解説していきます。

古い旅客鉄道網の閉鎖

 まず高速旅客鉄道が導入された場合に何がメリットとなるかを解説しましょう。冒頭で説明した様に、独立した旅客用の高速鉄道システムを導入する事によって、古い旅客用鉄道網の多くを閉鎖する事が可能になります。それによって旅客輸送よりも需要のある貨物輸送向けの路線を作り出し、そこに貨物用列車を走らせる事が出来る様になります。そうすれば中国国内の物の輸送効率が飛躍的に改善されます。多量の資材や物品を素早く遠くへ運ぶ事は中国の様な地続きの大陸国家においては人の輸送にも増して重要なんですね。
 高速旅客鉄道の計画者の試算によると、それらの古い路線を利用した貨物輸送の増加による収益は、新たな高速旅客路線の建設に使われた出費の多くを十分埋め合わせる事が出来るそうです。高価と言われる高速旅客鉄道を建設しても、それによって貨物輸送量が大幅に増加するのでその輸送料金から得られる収益によって元が取れるという事ですね。

儲かる路線と儲からない路線

 中国における人と物の輸送の未来をより明るいものにするであろう夢の高速旅客鉄道網ですが、実際にはその路線の全てが有益である訳ではありません。儲かる路線と儲からない路線が混在しているという事です。いくつかの路線は非常に有益である一方で、その他の路線は比較的収益が低いのです。都市と都市、或いは地方と都市を結ぶような路線になると収益は高いでしょうが、地方と地方を結ぶ様な路線になれば比較的人気が低く、収益も低くなることは容易に想像できます。しかしその事を考慮に入れても、総体として高速旅客鉄道は十分に利益を生むと考えられています。それは先述したような貨物輸送の増大が伴う事も理由の一つですが、中国の経済成長とともに豊かになった人々が比較的高価な高速旅客鉄道を積極的に利用する様になるだろうからです。そして高速旅客鉄道が中国の既存の輸送手段である飛行機、普通路線、船、バス、トラックなどに追加される形で大いに活躍する事は明らかでしょう。

高速旅客鉄道建設に渦巻く汚職

 高速旅客鉄道には良い面だけでなく、悪い面もあります。具体的には高速旅客鉄道の建設事業が巨大な汚職の温床となっているという事です。建設期間が非常に短い事がその大きな理由です。
 高速鉄道計画は元々は17年の中期的な計画として設計されていましたが、1997年の世界的な金融危機をきっかけに、強権的な中国鉄道省の大臣は予定を5年も短縮する事に首尾よく賛成したのです。もちろん急ピッチで建設が進められるという事は、経済的刺激策にもなる訳ですが、同時に早められた予定表の下では建設の監督体制も緩くなってしまいました。その結果、資金の流れを厳重に管理できなくなってしまったのです。そしてこの事が比較的容易に汚職が起きる状況を作り出してしまったのです。結局、鉄道省大臣とその何人かの同僚は何十億ドルもを盗み取った罪で監獄に入れられる始末となりました。

中国のインフラ建設汚職は如何にして防ぐ事が出来たか

 こうした汚職は、もし建設のペースがもっとゆっくりとしていれば随分と防ぐ事が出来たはずです。これは高速旅客鉄道建設だけに限らず、発電所や港など、その他のインフラ建設についても同様に言える事です。建設の歩調を低速に保ち、その下で厳重な監督を行えば、中国のインフラ計画はより無駄なく高効率で遂行することができたでしょうし、汚職事件も減らす事が出来た筈なのです。
 しかし、7年ごとに経済規模が2倍に膨らむと言う中国の空前の経済成長の速度にインフラ建設を合わせようとすれば、この様な急ピッチな建設にならざるを得なかったのでしょう。中国にとっては仕方のない事だったのかもしれません。

まとめ

 中国の高速旅客鉄道建設のメリットとデメリットについて見てきました。高速旅客鉄道の導入は古い旅客用路線を閉鎖し、空いたスペースで貨物輸送を行う事で輸送効率を上昇させる事を可能にします。それによって生じる貨物料金の収益は高速旅客鉄道の建設費を十分支払ってくれるのです。
 さらに高速旅客鉄道自体も有益な路線を多く作る事によって大きな収益を得ることが出来ます。広い目で見れば有益でない路線も多く生まれるでしょうが、それを考慮しても高速旅客鉄道は十分に価値あるインフラとして期待されているのです。
 しかし中国の高速旅客鉄道建設にはこうし光の部分だけでなく影、即ち汚職の問題もありました。当初17年計画だったところを通貨危機の影響で12年計画として実行してしまったため、建設の監督体制が緩み、汚職が多発したのです。もし建設ペースを減速させていればこうした問題もより少なかった筈です。






はじめに 1.古い旅客鉄道網の閉鎖 2.儲かる路線と儲からない路線 3.高速旅客鉄道建設に渦巻く汚職 4.中国のインフラ建設汚職は如何にして防ぐ事が出来たか まとめ はじめに  中国のインフラ建設はアジア通貨危機が起きた1997年以降、加速度的に進められてきました。金融危機に対す...