2020年11月7日土曜日

中国農村部における機械化された大規模農業への移行




はじめに

 中国農村部では農地などの不動産を自由に売却・購入する権利が長らく認められてきませんでした。そしてこの事が都市と農村の間の収入・富の格差の原因となってきました。何故なら農地として土地を使用する権利以外に財産権を持っていない農夫達は都市部の家族の様に利益目的で自分達の土地や住宅を不動産開発業者に自由に売却する事は出来ないからです。その代わりに彼らは近郊の都市政府によって開発目的で安価でかつ大量に農地を買い上げられてしまいます。結局得をするのは都市部の人間だけという事です。
 こうした都市と農村の不動産権における格差を問題視するようになった中国政府は、農地を集団所有する事と農地の総面積をある一定以上に保つ事を大前提にして農村地帯の経済を向こう見ずな不動産業などによってではなく、農村本来の生活様式を大事にした健全な方法によって改革しようとしてきました。
 この改革には大きく分けて三つの種類がありました。一つ目は田園地帯における農夫達の土地をより多く政府に登録する事で彼らに認められている土地の権利、即ち土地を使用する権利を購入・売却し、さらに抵当に入れる権利、を強化する事でした。そして二つ目の改革は農村に機械化された大規模農業を導入する事、さらに三つ目は経済基盤の弱い小さな村々を統合し、まとまりのあるきちんとした町に整備する事でした。
 今回はこの内、二つ目の大規模農業による田園地帯経済の改革に焦点を当てて解説していきます。

大規模農業が拒まれる時代の終焉

 早く大規模農業を導入すればそれだけ早く農村経済も改善する様に思えるかもしれません。しかし実際には機械化された大規模農業は1978年以降の改革開放期において中国政府から拒まれ続けてきました。なぜなら中国古来の家族農業と言う小規模な農業形態が農村地帯における社会的セーフティーネットの役割を担うと考えられてきたからです。もし農村出身のある家族が事業に失敗して落ちぶれたり、あるいはその家族の構成員の一人が移住先の都市の職業から解雇されて、他に仕事を見つける事も出来ない時、彼らが帰る場所が農村における家族農業だったのです。そこに戻って来さえすれば、住居と生活維持に必要な食料などの最低限のものは保障されていたのです。
 この様に家族農業は小規模であるが故に基本的な生活の保障が可能だったのです。これが大規模化され、農業従事者が全て被雇用者とみなされる様になってしまえば、それはもはや熾烈な競争にさらされる民間企業と同じですから、逆にこういったいざと言う時の“戻る場所”では無くなってしまいます。中国ではこうした理由で小規模な家族農業が農夫自身の為に大事にされて来たのです。
 ところが、近年は農村から都市への恒久的な移住者が増加し、都市で確固たる生活基盤を築く農村出身者が多くなりました。特に2003年からの胡錦濤(こきんとう)政権時代に農村での年金や健康保険、そして最低限所得保障(ベーシックインカム)の拡充が行われ、旧来の家族農業に代わって今度はこれらが社会的セーフティーネットを担う様になり、ケガや病気が原因で失業した場合にもそれが農夫にとって致命的になる事態は避ける事が出来る様になりました。
 近年のこうした背景から家族農業に機械を導入して大規模化する事に対する政治的な抵抗も自然と解消されてきたのです。
第二の改革:企業的農業の立ち上げ

 中国中央政府の農業部は今では機械化された大規模農業への移行を大いに奨励しています。そしてこうした背景が農村地帯の農業を今までの家族を養う為の小規模なものから利益を優先する市場向きの大規模なものへ作り変える原動力になっているのです。
 具体的にどのようにして作り変えるかと言うと、個々の農夫から多量の農業用小区画の使用権を買い上げ、それらを単一の事業に統合し、企業的農業を立ち上げると言う手法によって可能になります。農夫達も農地そのものではなく、その使用権であれば自由に売却する事が出来るので、その事をうまく利用して大量の使用可能な農地を集めることが出来るのです。実際に中国のいくつかの場所ではこうして生まれた企業的農業が実施されています。

共同組織と株式会社による大規模農業の運営

 中国は昔から農地を個人ではなく集団で所有すると言う習慣を決して侵してはいけないものとして神聖視してきました。そしてそれは農業の機械化・大規模化が奨励されている現在でもほとんど変わりません。
 中国政府としては農夫達が共同組織を作り、その下で彼らの農地が共同管理される事を強く望んでいます。いずれはこの共同組織によって立ち上げられた株式会社に各農夫が自分達の農地を財産として投資し、それと引き換えにその農地の価値に基づく株式を会社が彼らに発行すると言う運営形態が取られる事になるでしょう。
 また、農業がこの様に大規模化されたとしても、農夫達の生活様式がコンクリートづくめの都会的なものに変貌してしまう訳ではありません。農夫達はこの共同組織の中に留まれば、それまで通りの穏やかな農家的暮らしを保持することが出来ます。それが意にそぐわないならば、彼らの持ち株を売却し、都市へ出ていくなど、他の生き方に移行する事も可能なのです。
第三の改革:町化(townization)

 ここまで中国政府による農村地帯経済の改善の為の二つの改革(農夫の既存の土地権の強化と機械化による農業の大規模化)がどの様なものかについて解説してきました。
 では、それらに加えて重要とされている三つ目の改革とは何でしょうか?それは農村地帯に散在した経済基盤の脆弱な小さな村々を統合し、より人口が密で安定した経済を持つ町を作る政策です。これを英語ではtownizationなどと呼んだりします。こうした村の集積化により不要になった土地が出来、それによって農地面積が増えるので、結果として農村の人々がより効率的に農業に従事しながら生きていくことが出来る様になります。これについては次回により詳しく解説しましょう。

まとめ

 中国の農村地帯経済を改善する為の三つの改革について、二つ目の改革(農業の大規模化)に重点を置いて解説しました。
 第一の改革は農夫達の土地をより多く村の役所に登録し、彼らの農地の使用権をより自由に売買したり抵当に入れたりする機会を増やす事でした。
 そして第二の改革が機械化による農業の大規模化でした。つい最近までは社会的セーフティーネットの一つである中国古来の家族農業という形態を破壊してしまうと言う理由でこの大規模化は政府から拒まれてきましたが、近年になって農村からの恒久的な都市移住者が増加し、特に2003年以降、農村地帯における年金制度や健康保険、最低限所得保障などの導入が新たなセーフティーネットとしてこれに置き換わった事で、大規模農業化への活路を開くことが可能になりました。
 そして大規模農業は個々の農夫の農業用小区画の使用権を多量に買い上げ、それを元手として農夫による共同組織と株式会社を作り、その代わりに農夫達に株式を発行すると言う運営形態を取る事になりそうです。
 そして第三の改革は散在した村々を統合し、より経済的に密集した町を作る事により、農地面積を増やし農業効率を上げると言うものでした。






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