はじめに
中国都市部では1990年代後半以降住宅ブームで豊かになる都市家庭が急増しました。彼らは格安で都市部の住宅を購入し、後に市場価格でそれらを売却する事で莫大な収益を得る事ができたのです。 しかしその一方で、農村を含む地方の世帯は都市部の住宅に手を出す事ができませんでした。彼らは都市部世帯が利用できた格安の政府設定価格(内部価格)で住宅を購入する事は出来ず、従って僅かな貯金をはたいて高い市場価格でそれらを購入するしか選択肢が無かったからです。
中国の住宅ブームは実際にはこの様に都市戸籍を持つ世帯による独占的なインサイダーゲームと化していたのです。
今回は都市世帯と地方世帯でその不動産に対する権利、即ち財産権がどの様に違うかに焦点を当て、都市と地方の間に生じる不平等の原因を詳細に見て行きます。
都市世帯の財産権
中国の都市家庭には彼らの住宅に対する完全な形の財産権が与えられていました。つまり、彼らは自分達の住宅を自由に購入または売却する事が出来ました。また市場価格で住宅を売却した際に生じる大きな利益は課税される事も無く、そのまま彼らの懐に入ったのです。さらに、抵当金を得るために彼らの住宅を担保として使用する権利も彼らには与えられていたのです。だから、もし新しい住宅を購入しようとしてお金が無くても、今現在住んでいる住宅を担保にしてお金を借り、それを使って購入する事ができたのです。つまり彼らの持つ家を財産としてフル活用できたという事ですね。
以上のことから、今や中国の都市に住む家族は、もし彼らに不動産を獲得するだけの金銭的な余裕さえあれば、その不動産を先進国の家庭と同様に財産として自由に活用出来るという事が分かります。地方世帯の財産権
これに対して中国の農村世帯には財産に関してどの様な権利が与えられているのでしょうか?実は彼ら農夫達の財産権は都市世帯の自由なものとは大きく異なり、今も昔と同様に非常に厳しく制限されています。そしてこの事は今、頻繁に議論されているテーマです。
農村の財産権が具体的にどの様なものかと言うと、それは主に土地の使用権のみにとどまります。農村の農夫達は彼らの土地を公開市場で自由に購入したり、売却したりする権利を持たないのです。
その一方で、彼らはそうした土地をインフラ開発などをしたがっている政府に安い価格で差し押さえさせる事は出来るのです。しかしこれはある意味搾取と呼べる位不公平な話です。開発によってその農地の地価が上昇しても、差し押さえされた時点でその土地はもう国のものなのですから、元の持ち主だった農夫にはそれによる利益は全く無いからです。
そして先ほど、農夫にも土地の使用権だけは認められている、と言いましたが、この使用権の程度と言うのは実際には地域によって幅広く異なるのです。農作物しか作れない土地もあれば、家を建てる事が許可されている土地もあるかもしれません。しかし多くの場合、その土地が誰のものであるか、つまり所有権は不明瞭なのです。だから結局、土地に関する利益が発生してもそれが農夫達のものであると明確に証明する事が出来ないのです。農夫達に完全な財産権を与えようとしない政府
中国政府は相変わらず地方の農夫達に都市世帯と同レベルの財産権を与えようとはしていません。政府は農村世帯の不動産市場への参入には非常に消極的なのです。住宅や土地と言うのは農産物に比べ遥かに金額が大きい為、それを売買する事により生じる利益はその世帯を劇的に豊かにします。だからこそ、そうした不動産売買とそれによる収益化の自由を可能にする為の完全な形の財産権が地方の農夫達に与えられない今の状況というのは、都市と地方の収入および富の格差を助長する事になります。中国都市部が経験しているのは住宅バブルに過ぎないのか?
ここまで、地方世帯に比べて都市世帯が一方的に豊かになっていく原因としての財産権の地方と都市での違いについて見てきました。都市部の住宅ブームは完全な財産権を持つ都市戸籍所有者達のインサイダーゲームになっています。こんな事がいつまでも続くと思うのは少し楽観的なようにも見えます。そこで中国都市部の住宅ブームの将来について少し考えてみたいと思います。 中国では1998年から2013年の間の15年間、住宅建設量と住宅価格の両方が途方も無い勢いで増加してきました。アメリカ合衆国が2007年に経験したように、中国の住宅ブームもバブルに過ぎず、その内崩壊する時が来るのでしょうか?
その答えは今後しばらく住宅市場を見ていく事で明らかになるでしょうが、現時点ではこれがバブルであると言える根拠は無く、中国都市部の住宅価格の上昇の仕方はあくまで堅実さを保っています。
まとめ
中国の地方と都市で家庭に与えられた財産権がどれだけ異なるかを見てきました。都市戸籍を持つ都市世帯は自分達の住宅を自由に売買し、時にそれを担保にして資金を借りる事が出来、また売買による利益を全て自分達のものにする権利を持っています。 一方の農村世帯は土地の使用権が与えられているだけで、その売買権までは認められていませんでした。その為、彼ら農夫達は都市家庭が不動産市場に参入する事で手にしているような大きな利益を得る事が相変わらず出来ないでいます。これによって地方と都市の間の収入および富の格差が助長されています。
そしてこうした不平等が終わる事はあるのか、つまり中国都市部の住宅ブームは結局はバブルであり、その内崩壊するのではないか、という疑念についても少し触れました。しかし現時点ではこれがバブルであると言う事を示す根拠はありませんでした。