2020年9月13日日曜日

1990年代の都市経済の成長と農村経済の停滞




はじめに

 1990年代に入り、中国の経済改革はそれまでの農村中心のものから都市中心のものに移行していきます。それは天安門事件が証明したように、中央政府にとっての脅威が都市に住む人々の政府への不満である事を改革指導者たちが痛感したからでした。こうした事件が再び起きない様にする為にも、都市を豊かにしていく必要があったのです。1993年に鄧小平(とうしょうへい)に代わって江沢民(こうたくみん)が国家主席となり、中国都市部の改革が急速に進みます。
 今回は1990年代の都市部の改革の様子と、それによって都市世帯が如何に豊かになって行ったか、またその反面、地方にどの様な不平等が生じていたかを具体的に見ていきます。

企業と労働者に関する自由化

 まず、中国政府はそれまで都市部の企業の主流だった国有企業を再構築し、それらに対する金融の在り方を大きく改善しました。より効率的な企業体系に作り変えた訳ですね。そしてその代わりに私企業の進出を促進したのです。また、それらの企業で働き賃金を得ようと都市部に集まってくる地方からの労働者達の移動についても制限が緩和され、より自由に、そして容易に都市へ移動できるようになりました。
 しかし、彼ら労働者の家族は田舎に置き去りになっていました。都市部における急激な人口増加に伴う都市のスラム化を避けるために、労働者の家族についてはまだ移動が禁止されていたからです。さらに、移住労働者の受ける社会サービス(医療、福祉など)の負担を担うのは相変わらず地方だったのです。移住労働者が住むのは都市部でもその生活を経済的にバックアップしていたのは実質地方だったという事です。
 こうした所にまだ地方出身者に対する不平等があったのです。

都市部の商品に関する自由化

 この時期、主に都市部で作られる製造品の価格も自由化されました。つまりそれらの価格が需要と供給で決まる市場価格になったという事ですね。中国都市部という事もあり、需要は膨大ですから、当時、商品価格はどんどん上昇したでしょう。都市の企業はこれによって急激に成長することが出来たのです。
 しかし、その一方で穀物やその他いくつかの農産物については市場価格は設定されず、低めに抑えられた政府の買い上げ価格のみが相変わらず有効でした。つまり1990年代、農村部は豊かになろうとしても、生産した作物を安く政府に買い上げられてしまう為、都市に比べて収入の上昇が極めて起きにくかったのです。さらに、彼ら農村の農夫たちは、自由市場で高値で売ることが出来る換金作物の生産を犠牲にして穀物の生産量を最大化する様に政府から命令されていました。これもひとえに都市部家庭向けの食料を安く大量に調達する為でした。
 この様に、都市部世帯は収入、食料などの面でとても恵まれていましたが、その為の犠牲として農夫たちにはお金儲けの術がほとんど無かったのです。

都市部の住宅民営化

 そして都市経済を発展させた要因として最も大きなものが1998年の住宅民営化です。都市住宅の株式が民営化され、住宅価格の上昇が始まったのです。これによって、市場価格より随分と低い政府設定の内部価格で住宅を購入した都市部家族に膨大な利益がもたらされる事になります。
 彼ら都市戸籍を持つ家族は格安で購入したそれらアパート・住宅を後に高い市場価格で売却する事で簡単に利益を得ることが出来たのです。2003年までには都市世帯は不動産に関する完全なる財産権を政府から与えられます。つまり不動産の所有、購入、そして売却を制限なく好きなだけ行えるようになったのです。例えば新たに住宅を2軒同時に購入する事だって出来たのです。この場合、一方は住むために、もう一方は資産として後に売却して利益を得る為に所有する事ができました。
 一方の農村家族はこうした財産権を今日になってもまだ与えられていません。

都市世帯の所得上昇

 以上で述べた政策によって、1990年代の都市世帯の収入は急激に上昇します。その一方で農村世帯は経済的に置き去りの状況にありました。1990年に、都市部の収入は農村の収入の2.2倍ありました。それが2003年には3.2倍に膨らんだのです。
 こうして1980年代に改善するかと思われた都市と農村の収入格差は1990年代に入り再び大きく広がりを見せる事になったのです。こうした都市-農村間の不平等に対して2000年代に中国政府は幅広い対策を打ち出していく事になります。それについてはまた次の機会に解説しましょう。

まとめ

 1990年代、都市部で行われた、国有企業の効率化や私企業の推進、また労働者の移動制限の緩和、さらに製造商品の価格の自由化などによって都市部経済は急速に成長する事になります。
 その一方で農村の生産物、つまり農産物の価格については政府の買い上げ価格が設定され、その上昇は抑えられたままでした。政策によって農夫世帯は都市世帯の様に思う様に豊かになれなかったのです。こうした不平等によって都市と農村の収入格差が再び広がりを見せるようになります。
 さらにこうした格差に拍車をかけたのが1998年に行われた都市部の住宅民営化でした。これによって都市世帯は住宅を自由に購入、売却し、莫大な利益を得ることが出来る様になったのです。
 こうした不平等を是正するための政府の施策についてはまた次回お話ししますね。






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