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2020年12月17日木曜日

高速旅客鉄道建設と汚職




はじめに

 中国のインフラ建設はアジア通貨危機が起きた1997年以降、加速度的に進められてきました。金融危機に対する財政刺激策がインフラ建設だったのです。  
 しかし、中国のインフラ建設はそのあまりの規模の大きさの為、しばしば「必要量を遥かに超えており、無駄が多すぎる」と非難されてきました。しかし実際には中国という国はアメリカ合衆国と同じ規模の国土があり、人口はその4倍にも及ぶことから、批評家達の想像を遥かに超える量のインフラが必要である事は確かなのです。何より中国では7年毎に経済規模が2倍に膨らんできたのです。これはアメリカ合衆国やイギリスの様な、“通常の”成長率で穏やかに成長してきた他国とは明らかに異なる経済的条件であり、これに伴い必要となるインフラの量や建設ペースも前例のない物にならざるを得ないのです。  
 そして中国のインフラ建設の中でも他国と比べてとりわけ注目を集めるのが高速旅客鉄道の建設です。中国では所謂先進国とは違い、安い土地、労働力、耐久資本財を利用してより安く高速旅客鉄道を建設することが出来るのです。高速旅客鉄道が中国で必要とされる理由として、既存の古い鉄道が人で溢れかえってしまっていて、容量オーバーしてしまっているという問題があります。洗練された高速旅客鉄道を導入し、その代わりに不要になった古い乗客用路線を閉鎖し、そのスペースを貨物用に利用すれば、人と物の輸送効率は大きく改善するでしょう。  
 という事で今回は中国における人と物の輸送の将来を大きく左右するであろう高速旅客鉄道建設の長所と短所について、建設ラッシュに便乗して利益にありつこうとする役人達の汚職にも焦点を当てて解説していきます。

古い旅客鉄道網の閉鎖

 まず高速旅客鉄道が導入された場合に何がメリットとなるかを解説しましょう。冒頭で説明した様に、独立した旅客用の高速鉄道システムを導入する事によって、古い旅客用鉄道網の多くを閉鎖する事が可能になります。それによって旅客輸送よりも需要のある貨物輸送向けの路線を作り出し、そこに貨物用列車を走らせる事が出来る様になります。そうすれば中国国内の物の輸送効率が飛躍的に改善されます。多量の資材や物品を素早く遠くへ運ぶ事は中国の様な地続きの大陸国家においては人の輸送にも増して重要なんですね。
 高速旅客鉄道の計画者の試算によると、それらの古い路線を利用した貨物輸送の増加による収益は、新たな高速旅客路線の建設に使われた出費の多くを十分埋め合わせる事が出来るそうです。高価と言われる高速旅客鉄道を建設しても、それによって貨物輸送量が大幅に増加するのでその輸送料金から得られる収益によって元が取れるという事ですね。

儲かる路線と儲からない路線

 中国における人と物の輸送の未来をより明るいものにするであろう夢の高速旅客鉄道網ですが、実際にはその路線の全てが有益である訳ではありません。儲かる路線と儲からない路線が混在しているという事です。いくつかの路線は非常に有益である一方で、その他の路線は比較的収益が低いのです。都市と都市、或いは地方と都市を結ぶような路線になると収益は高いでしょうが、地方と地方を結ぶ様な路線になれば比較的人気が低く、収益も低くなることは容易に想像できます。しかしその事を考慮に入れても、総体として高速旅客鉄道は十分に利益を生むと考えられています。それは先述したような貨物輸送の増大が伴う事も理由の一つですが、中国の経済成長とともに豊かになった人々が比較的高価な高速旅客鉄道を積極的に利用する様になるだろうからです。そして高速旅客鉄道が中国の既存の輸送手段である飛行機、普通路線、船、バス、トラックなどに追加される形で大いに活躍する事は明らかでしょう。

高速旅客鉄道建設に渦巻く汚職

 高速旅客鉄道には良い面だけでなく、悪い面もあります。具体的には高速旅客鉄道の建設事業が巨大な汚職の温床となっているという事です。建設期間が非常に短い事がその大きな理由です。
 高速鉄道計画は元々は17年の中期的な計画として設計されていましたが、1997年の世界的な金融危機をきっかけに、強権的な中国鉄道省の大臣は予定を5年も短縮する事に首尾よく賛成したのです。もちろん急ピッチで建設が進められるという事は、経済的刺激策にもなる訳ですが、同時に早められた予定表の下では建設の監督体制も緩くなってしまいました。その結果、資金の流れを厳重に管理できなくなってしまったのです。そしてこの事が比較的容易に汚職が起きる状況を作り出してしまったのです。結局、鉄道省大臣とその何人かの同僚は何十億ドルもを盗み取った罪で監獄に入れられる始末となりました。

中国のインフラ建設汚職は如何にして防ぐ事が出来たか

 こうした汚職は、もし建設のペースがもっとゆっくりとしていれば随分と防ぐ事が出来たはずです。これは高速旅客鉄道建設だけに限らず、発電所や港など、その他のインフラ建設についても同様に言える事です。建設の歩調を低速に保ち、その下で厳重な監督を行えば、中国のインフラ計画はより無駄なく高効率で遂行することができたでしょうし、汚職事件も減らす事が出来た筈なのです。
 しかし、7年ごとに経済規模が2倍に膨らむと言う中国の空前の経済成長の速度にインフラ建設を合わせようとすれば、この様な急ピッチな建設にならざるを得なかったのでしょう。中国にとっては仕方のない事だったのかもしれません。

まとめ

 中国の高速旅客鉄道建設のメリットとデメリットについて見てきました。高速旅客鉄道の導入は古い旅客用路線を閉鎖し、空いたスペースで貨物輸送を行う事で輸送効率を上昇させる事を可能にします。それによって生じる貨物料金の収益は高速旅客鉄道の建設費を十分支払ってくれるのです。
 さらに高速旅客鉄道自体も有益な路線を多く作る事によって大きな収益を得ることが出来ます。広い目で見れば有益でない路線も多く生まれるでしょうが、それを考慮しても高速旅客鉄道は十分に価値あるインフラとして期待されているのです。
 しかし中国の高速旅客鉄道建設にはこうし光の部分だけでなく影、即ち汚職の問題もありました。当初17年計画だったところを通貨危機の影響で12年計画として実行してしまったため、建設の監督体制が緩み、汚職が多発したのです。もし建設ペースを減速させていればこうした問題もより少なかった筈です。






2020年11月11日水曜日

高速鉄道建設ラッシュに見る中国のインフラ建設の正当性




はじめに

 中国では1998年の住宅民営化以降、住宅建設と並行してインフラ建設も急ピッチで進められました。1997年に起きたアジア通貨危機に対する財政刺激策として中国政府が特別債の発行を通してインフラへの投資を推進したのです。
 それ以降、港や発電所、インターネット網、高速旅客鉄道などが次々に建設されました。こうしたインフラ建設によって物流は効率化され、中国経済の成長は一層加速する事になります。
 しかしこうした膨大なインフラ建設劇は純粋に需要だけに応えたものではありませんでした。実際には金融機関の非常に低い利息率や地価の急激な上昇などが中央政府からの政策的圧力を感じていた地方政府にインフラ建設をより容易に、そして向こう見ずに行わせていたのです。また中国の管理階層に属する地方政府の役人たちの出世欲もインフラ建設を過剰に加速させた要因の一つでした。
 その結果、中国では本当に必要かどうか疑わしい様な途方もない規模でインフラが建設されてきました。では中国のインフラ建設に無駄があるかと言うと、そうとも言い切れないのです。何故なら中国にはアメリカ合衆国と同じ位の国土、14億という人口、年10%と言うとてつもない経済成長率がある事を考慮しなければならないからです。この年率10%というのは7年ごとに経済規模が2倍に膨らむという事ですから、インフラもそれに合わせて加速度的勢いで建設する必要があるのです。
 今回は外国から見て中国のインフラ建設が一見過剰で向こう見ずに思えても、実際にはそれは中国国内の需要に応じた正当なものであるという事を、高速鉄道建設を例にとって解説して行きます。

中国における高速鉄道建設が批判される理由

 中国という国の規模や経済成長のスピードなどを考慮すれば、いくら外国から「向こう見ず」「無駄」と批判されようがとりあえずインフラを建設して、後で疑問を提示する方が理にかなっているかもしれないのです。中国では7年ごとに経済規模が2倍に膨らんで来たのですから、きちんと稼働しそうなものであれば、発電所であれインターネット網であれ、取り敢えず建てるべき、という事です。もし妥協してこの建設速度を緩めれば、十分豊かであるにもかかわらず近代的なインフラ設備を利用できないという層の人々が国内に大量に発生してしまうという危険もあります。
 中国はインフラであれば何にでも軽率に投資をしている様に見えるかもしれませんが、それは飽くまでも外国から中国を見た時の印象に過ぎません。中国ではインフラへの投資を決定する理由はそんなに単純ではありません。利益になるという事以外に動機があるという事です。だからインフラ建設の必要性について中国以外の先進国と中国とを単純に比較する事は出来ないのです。この事は中国における高速鉄道網建設計画の例に顕著に表れているのでこれついて以下で解説しましょう。
 この高速鉄道網建設計画はしばしば国内外から批判されていました。その批判理由にはいくつかありますが、一つ目の理由は、中国はまだ高速鉄道の様な贅沢品を備え付ける事が必要な程、経済的に成熟し切っていないと言うものです。そして二つ目に、高速鉄道の建設はあまりにも高額であり、実際に運用されても採算が取れる見込みがなく、また建設ペースについてもあまりに速く向こう見ずである、と言った理由があります。これらの批判の正当性について以下で検証していきます。

高速鉄道は中国にとってまだ不必要な贅沢品か?

 まず中国の高速鉄道建設を批判する理由の一つ目、中国は高速鉄道の様な贅沢品が必要な程発展していない、と言う主張について考えてみましょう。確かにアメリカ合衆国や日本、イギリスなどの先進国から見れば、比較的最近経済成長を遂げた中国をこのようにまだ未熟な国と見なすことが出来るかもしれません。
 しかしそれはお高くとまった実にナンセンスな視点と言えるでしょう。日本を考えてみてください。日本は1964年、東京オリンピックが開催された年に史上初の新幹線を開通しましたが、この時の一人当たりのGDPは2007年の中国におけるものと同じでした。そしてこの際、この新幹線の運用開始は国内外で大いに称賛されたのです。何故2000年代になって中国が高速鉄道を敷く事を批判されなければならないのでしょうか?その理由などどこにも見当たらないのです。この事を考えれば、この高速鉄道は単に贅沢品というよりは、非常に実用的なインフラとして富裕層のみならずより一般の人々にも活用され、中国国内の人と物の移動をより効率化することが出来るはずなのです。

高速鉄道は高価すぎるか?

 中国の高速鉄道に対する批判のもう一つの理由、この高速鉄道はあまりにも高価である、と言う主張はどうでしょうか?ちなみに、これは主に中国国内の批評家によって主張されている事です。
 これはある程度合理的な異議に聞こえます。中国国内を網羅すべく、鉄道の建設規模が必然的に大きくなる為、採算が取れなければ大変な損失になるからです。しかしこの批判についてもきちんと反証することが出来ます。確かに高速鉄道は労働力や地価が高い日本などの裕福な先進国では建設するのに非常に大きなコストがかかるでしょう。これは周知の事実です。
 しかし中国の場合はどうでしょうか?中国では都市部はともかく、地方ではまだまだ地価や労働力は安く、また建設資材も低価格で手に入ります。そのため鉄道の路線1キロ当たりの建設費用も裕福な先進国の場合に比べてかなり安くすることが出来ます。だから中国国内で高速鉄道建設が高価になる、と言う心配は実際にはそれほど無いのです。

高速鉄道を建設する重要な理由:旧設備の稼働率の異様な高さ

 中国が高速鉄道を建設しようとしている重要な理由に、旧来の鉄道網の設備稼働率(一本の列車で一日当たりどれだけの量の人や物を運ぶかを数値化したもの)の異常な高さがあります。アメリカ合衆国やEU、日本などの主要国の設備稼働率の何倍も高いのです。簡単に言えば中国では古い既存の鉄道網が人や物で溢れかえっており、それが片時も休む事無く運行しているのです。例えば2008年に中国は世界の鉄道路線の総距離の6%しか持っていませんでしたが、輸送量で言えば、全世界の鉄道交通量(ton)のおよそ25%もを輸送していたのです。
 こうしたデータを見れば、中国は高速鉄道の導入によって人と物の輸送を効率化し、こうした容量オーバーの状態から抜け出さなければならないと言う事が理解出来ると思います。だから中国の高速鉄道建設は十分に正当なものなのです。

まとめ

 中国の1997年以降の一見過剰とも言える大規模なインフラ建設の正当性を、高速鉄道建設を例にとって見てきました。
 中国の高速鉄道は、まだ発展しきっていない中国には贅沢品であるとか、あまりにも高価であるなどの理由で批判されてきました。
 前者の批判については日本の例によって反証できます。日本は一人当たりのGDPが2007年の中国と同じであった1964年に新幹線を開通していたのです。これを考えれば中国が2003年に高速鉄道の建設に着手した事は決して早すぎる事では無かったのです。
 また、高速鉄道は高価すぎる、と言う後者の批判については、中国の地方の安い土地、労働力、建設資材を用いてこれを建設する事を考慮すれば反証出来ます。高速鉄道建設が高価になるのは日本の様な裕福な先進国においての場合なのです。
 また、中国が高速鉄道を何とかして完成させなければならない理由として、既存の鉄道の稼働率が他の先進国と比べて何倍も高く、列車が人や物で溢れかえっていると言う実態がありました。高速鉄道導入によって人と物の移動を効率化し、この容量オーバーの状態を改善しなければならなかったのです。






2020年11月4日水曜日

インフラ建設ラッシュは無駄を生んだか?




はじめに

 1998年からの中国都市部の住宅民営化と2003年からの財産権の付与により、都市家族は自由に住宅を購入したり売却したり出来る様になります。特に自由市場価格で住宅を売却する事は彼ら都市家族に莫大な利益をもたらしたのです。こうした経済的背景から住宅への需要が生じ、住宅の建設ブームを巻き起こしました。
 そして同時期に住宅建設と共に急激に進んだのがインフラ建設でした。1997年に起きたアジア通貨危機に対応するための財政刺激策として、中国政府がインフラへの支出を加速させたのです。1997年から2014年までに急速かつ大規模に建設が進められたインフラには国営高速道路、港、発電所、インターネット網、高速旅客鉄道などがありました。これによって物流が大規模化・効率化され、中国経済も急速に成長していく事になります。またこれに伴い中国市民の生活は急激に便利になって行きました。
 しかし、このインフラ建設ラッシュ劇の動機には純粋な需要以外の部分もありました。例えば地方政府は当時の極めて低い利息率や急激に上昇する地価などを利用して容易にインフラ投資が出来たのです。また多くの地方政府の役人達は不必要なインフラを敢えて大量に建て、それによってその地方都市の管理階層における地位を無理やり高め、それに属する自分達の出世に繋げようとしていた事も動機の一つです。
 今回はこの大規模かつ急速なインフラ建設劇の中で中国が本当に必要なインフラをどれだけ建てる事が出来ていたのかを見ていきます。

熱狂的なインフラ建設に対する非難

 冒頭でもお話しした様に、中国の近年のインフラ建設ラッシュには地方政府に勤める役人たちの出世欲や利権などが絡んでおり、建設されたインフラ全てが中国市民の需要だけに応えたものであるとは言えない部分が結構あります。
 では中国で1998年以降建設されてきたインフラの内、一体どれだけが有用で、どれだけが無駄なのでしょうか?
 実際にはこの20年で導入されたインフラの多くは役に立っているし利益もきちんと生んでいます。しかし、中国の熱狂的なインフラ建設は、その規模が余りにも大きく、必要量であるとはとても信じられない為、しばしば非難の対象となってきました。

インフラ建設過剰であると非難する前に考慮すべき事

 中国のインフラ建設を過剰であるとか無駄であるとか非難する前に考慮しなければならない中国特有の背景があります。それは即ち中国と言う国の規模です。中国の国土の広さはアラスカも含めたアメリカ合衆国と同じ位であり、正に大陸規模の国です。そして人口はアメリカ合衆国の実に4倍以上を抱えています。だから、一見中国のインフラの量が過剰に見えても、人口一人当たりの基準でそれを見れば、無駄や浪費があるとは一概には言えないのです。
 例えばインフラの一種であるインターネット網について言えば、中国のインターネット利用者数は2014年時点で6億5,000万人に達しており、現在も拡大し続けています。アメリカ合衆国と同じくらいの広さの国に、その人口の2倍程のインターネット利用者がいるのですから、建設規模が大きくなるのは当然です。また人口密度が高ければ消費電力もそれだけ必要になりますから、それを賄う為には発電所をあちらこちらに建設しなければなりません。そして膨大な生産性を持つ中国国内の工場や農場から出荷される製品や農産物の輸送、輸出には道路や鉄道、港も必要になります。こうして考えると日本やアメリカに住んでいる人から見て建設過剰であっても、実際に中国の人口規模・経済規模から見るとそれは必要量なのかもしれないという事が分かります。

中国以外の先進国の常識

 中国のインフラ建設への投資はあまりにも軽はずみに行われている様に見えるかもしれません。
 しかしそれはアメリカやイギリス、日本などの裕福ないわゆる通常の先進国から見た場合の意見です。逆にこれらの国々の特徴とは何でしょうか?まず一つ目に中国とは違いゆっくりとした成長率で発展してきた国という事が言えます。二つ目にそれらの国々の主要となっている産業は三次産業であるサービス業であるという事があります。さらに三つ目に、これらの国々ではインフラが建設されたのが随分昔であり、今となってはインフラなどあって当たり前であると思われているという事も言えます。
 中国の場合これらはどれも当てはまらないのです。中国では経済成長が前例のないほど急速であり、主要な産業は農業や製造業、建設業などを主とした一次・二次産業です。そして中国ではインフラはまだ若く、本格的に建設が始まって20年程しか経っていません。

中国の経済成長速度と必要なインフラの容量

 中国のインフラ建設の熱狂を理解する為には先進国の常識では考えにくい規模とスピードで中国が発展してきた事をまず知らなければなりません。
 中国の過去30年間の経済成長率はその殆どの期間で年平均10%でした。これは7年毎にその国の経済規模が2倍になる事を意味します。経済成長率以外の条件が私達の国と同じであると仮定すれば、単純に考えて、中国ではこの30年間、7年毎に必要なインフラの容量が2倍に膨らんできたという事です。改革開放が始まった1978年のインフラ容量を1とすると、7年後には2、14年後には4、21年後には8、28年後には16の容量のインフラが必要になります。この凄まじい需要の拡大の仕方を見れば、例え信じられない程にインフラ建設の規模が大きくても、それが必要量であるという事が何となく想像できます。

まとめ

 建設過剰と言われる中国のインフラが、実際どの位需要に則した無駄のない物であるかを見てきました。
 まず結論として、この20年で建てられた中国のインフラはその殆どがきちんと機能しており、利益も出していました。従って無駄はそれ程ない様です。
 これを“過剰”や“無駄”と言ってしまう前にまず考えないといけない事は、中国の広大な国土や14億人と言う人口規模、年10%と言う経済成長速度、そしてまだ主要な産業が1次産業、2次産業である経済であるという事、さらにインフラがまだ当たり前ではない地域が国内にあるという事でした。
 こうした条件下では、7年毎に必要なインフラ容量が2倍に膨らむ為、こうした需要に応じる為には一見過剰ともいえる規模のインフラ建設が必要である事が分かりました。






2020年10月29日木曜日

インフラ建設ラッシュと地方政府の役人の昇格の関係




はじめに

 中国では1998年以降、住宅建設のブームと共に、インフラ建設も加速しました。これはその前年に起きたアジア通貨危機への対応として中国政府が財政刺激策を発動し、その中で特別債を利用してインフラ建設への支出を増大させた為でした。
 それ以降、高速道路、大規模な港、発電所、インターネット、高速旅客鉄道などの建設が次々に行われました。こうした大規模なインフラの導入によって、中国における物流や人の流れは劇的に改善され、中国経済は一層の発展を見せる事になりました。特に上海港はそれまで輸出規模で世界19位でしたが、この大規模なインフラ建設後の2013年にはシンガポールを抜き、世界第一位の座にまで上り詰める事になったのです。
 こうして世界一の輸出大国となった中国ですが、その背景にはインフラを過剰に建設する事で自分達の出世を叶えようとする地方政府の役人たちの欲望も潜んでいたのです。今回は中国におけるこうした派手なインフラ建設劇にどの様な原因があったのかを実際に建設されたインフラの種類なども交えて見ていきます。

近年重点的に建設されているその他のインフラ

 冒頭でお話しした様に、1998年以降の中国のインフラ建設ラッシュでは、高速道路や港、発電所、インターネット、高速旅客鉄道などが建設・導入されました。
 そして近年より重点的に建設されているのは都市部における地下鉄網や下水処理場などの比較的華やかさの無い種類のインフラです。華が無いと言っても生活には必需のものですね。地下鉄については2016年時点で中国国内の22都市で総延長3,000キロメートルが建設されました。

インフラ建設の動機と過剰で浪費的な建設計画

 中国のこの大規模かつ急速な、そして時に贅沢とも言えるようなインフラ建設劇は何が動機となって引き起こされたのでしょうか?
 もちろん、都市化に伴う中国国内からのインフラへの正当な需要があった事は確かでしょう。中国の経済計画者達はこの急激な都市化に伴うこのインフラ需要の増加を必死に満たそうと努力していました。
 しかし、インフラ建設ラッシュが起きた動機として正当とは言えないものも実際にはあったのです。後で詳しく述べますが、それら動機の中には地方政府の役人たちの出世欲もあったのです。そうした動機が重なってインフラ建設の規模や速度を強めました。できるだけ大量のインフラをできるだけ早く建てれば、中央政府からの自分達の評価も上がる、と彼らは考え、それを実行した部分がかなり大きいのです。
 こうした動機は過剰で浪費的な建設計画を生む事がありました。そして中には設計や質の面で欠陥があると言わざるを得ないインフラもかなりあったり、また時には建設場所の周辺環境との調和が取れていなかったりもしました。

綿密な事前分析なしのインフラ導入

 本来ならインフラ導入も運営開始後の採算が合わなければその建設を踏みとどまるべきでしょうが、中国の地方政府は経費と利益に関するこうした事前の綿密な分析を行わずにとにかくインフラ導入をしようとしている側面が強くありました。とにかく大規模なインフラを早急に建設しなければならない、と言ったプレッシャーがあったのでしょう。そしてこうしたプレッシャーを背景にした建設競争の中で地方政府は他の地方政府に負けじとインフラ投資に躍起になってしまい、採算をあまり考慮しなかったのです。
 こうした安易なインフラ投資の理由として、2002年から2012年の異常に低い金利や都市化に伴い土地売却による利益が急激に上昇していた事が地方政府に非常に有利に働き、彼らが低コストでインフラを導入する事を可能にしていた、という事があります。

インフラ建設ラッシュと小都市の地位向上
 前項で、低金利や地価の上昇が地方政府に容易なインフラ投資をさせていた事を見てきました。しかし、この他にもインフラ投資の動機として地方政府の役人たちの出世欲と言うのもあったのです。
 どういう事か説明しますね。中国の管理階層の中で小都市が地位を高めるためには、その小都市はインフラ設備に関するある特定の基準(レベル)を達成しなければなりません。例えば地下鉄が何キロメートル走ってなければいけないとか、インターネットユーザーが何人いなければいけないとか、そう言う基準です。そしてその基準を満たす事でその小都市が階層中の地位を向上させることに成功すれば、それは同時にその小都市政府で働く役人たちの出世も意味するのです。だから役人達は自分達が出世するためにも必死にインフラを導入しようとしたという事です。
 お役所的な刺激策という事ですね。インフラ建設にはこうした動機があった為、時にその建設計画が本当に必要かどうかという事が度外視されてしまい、ただ自分達の昇級の為に魅力的だからと言う理由だけで建設計画が実行に移されてしまう事が多々あったのです。

まとめ

 中国のインフラ建設ラッシュがどういった動機で行われて来たのかを見てきました。
 動機の中には都市化に伴う需要を満たす為と言う正当なものもある一方で、2002年から2012年の異常な金利の低さや急激な土地売却価格の上昇などが地方政府にインフラ投資を容易に行わせていた事も事実でした。
 さらには、中国の管理階層の中で小都市が地位向上を行う為にあるレベルのインフラ導入が必要であり、小都市の役人達がその小都市の地位向上に伴う自分の昇級の為に本当にそのインフラが必要かどうかを度外視して、とにかく建設を実行していた言う実態もありました。つまり地方政府の役人の出世欲がインフラ建設の動機の一部になっていたのです。






2020年10月24日土曜日

2000年代からの港、発電所、インターネット、高速旅客鉄道などのインフラ建設ラッシュ




はじめに

 中国では1998年の住宅民営化から住宅建設ブームが巻き起こりました。そして中国政府は高級住宅の供給過剰問題や低所得者向けの手頃住宅の供給不足問題などに対処してきました。今後は国からの助成金を得た公営住宅の建設など、低所得者向け住宅の支援が活性化すると考えられています。
 そうした大規模な住宅建設の一方で中国ではインフラ建設も盛んに行われてきました。特に1998年にアジア通貨危機を経験した事から、これに対処するために財政刺激策としてインフラへの支出を特別債を利用して積極的に行うようになったのです。
 このインフラ事業の代表的なものとしてアメリカ合衆国の州間高速道路システムをモデルにした中国国内の高速道路網の建設がありました。中国では2014年までにアメリカ合衆国の1.5倍の長さである11,2000キロメートルにも及ぶ高速道路網が建設されたのです。
 今回は中国におけるこうしたインフラ建設が高速道路以外にどのような分野で行われていったかを見ていきます。

港の輸出能力の拡張

 港は元々中国の東海岸沿いに点在していましたが、2000年代になって中国国内での農産物、軽工業、重工業製品などの輸出量が増大する事に伴い、これに対応するためにこうした港の設備も拡張されました。
 2000年代の初めには、中国の輸出の半分近くは香港経由で行われていました。何故なら当時、中国国内の港はまだ技術的な側面で遅れており、貨物を十分に扱えなかったからです。ただし、そうした国内港のなかでも唯一上海だけは世界で上位19位のコンテナ港として活躍していました。中国一の上海港でも世界19位と言う低い輸出量だったのです。
 しかし2000年代初めから2013年までに中国国内の港を通しての輸出量は実に6倍にまで増加します。この十数年間にそれだけ国内の新たな港の建設や技術的な近代化が進んだという事です。こうして2013年には中国は世界トップクラスの輸出大国となり、輸出量ランキングで中国に続く6つの輸出大国(アメリカ合衆国、ドイツ、オランダ、日本など)の輸出量合計を上回る量のコンテナを出港させるまでになりました。そして上海はそれまで輸出量1位だったシンガポールを抜き、世界最大のコンテナ港となります。ちなみに上海以外に中国国内の5つの港(深圳、香港、寧波、青島、広州など)が世界トップ10にランキングしています。
 こうして2000年代に入ってから、中国国内の産業の本格化を支えるインフラとして港が急速に整備されていったのです。

発電所の建設ラッシュ

 中国の輸出において主要な役割を担っている広東省(国際的な貿易港である深圳を抱える)では、2003年から時折停電が起こり始めます。恐らく使用電力に供給電力が追い付いていなかった為でしょう。その為、より洗練された発電所をより多く建設する為の投資が積極的に行われるようになりました。
 2003年からの10年間に、中国は何とイギリス国内の全発電所に相当する規模の発電所を毎年新たに建設しました。2002年には発電容量は357ギガワットでしたが、2014年にはこれが1,300ギガワットにまで増大しました。12年間で実に4倍も増えたんですね。これはアメリカ合衆国の1.2倍の規模です。

インターネットの導入

 中国における港や発電所と言った重厚長大なインフラ建設ラッシュの様子を見てきましたが、ここからはより近代的なインフラであるインターネットの導入について見ていきましょう。
 2003年時点で、中国国内のインターネット利用者数は僅か6,800万人でした。しかしその後、遠距離通信やインターネットネットワークといったインフラへの巨額の投資が行われ、2014年にはこのインターネット利用者数は6億5,000万人にまで増加しました。中国人口の約半数がインターネットを利用するようになったのです。 インターネット利用者数が急激に増加したという事からも、この時期に中国国内でパソコンの所有者が爆発的に増加した事も窺えます。
 また、この2003年から2014年の間に携帯電話利用者数は2億7,000万人から13億人にまで増加しました。パソコンに比べ低価格の携帯電話になるとインターネット利用者数よりもさらに利用者の数が多いことが分かります。中国人民のほとんど誰もが1台は携帯電話を所有していると言う事が何となく想像できます。

高速旅客鉄道の建設

 同時期に中国はインターネットよりもさらに高度な技術を要するインフラ建設に着手していました。それが中国国内の大量の人の移動を可能にする高速旅客鉄道です。これは日本の新幹線をモデルとしたもので、総延長実に16,000キロメートルに及ぶ大規模な高速旅客鉄道の建設計画が2003年にスタートしていたのです。
 この高速旅客鉄道建の建設計画はあらゆるインフラ建設計画の中でも最も大きな議論を呼びました。それだけ技術的に困難な課題だったという事でしょう。

まとめ

 中国において港、発電所、インターネット網、高速旅客鉄道などの近代的なインフラ導入がどれだけ大規模にかつ急ピッチで行われて来たかを見てきました。
 2000年代から中国国内の港のコンテナ輸出容量は港の整備によって急激に拡張され、世界輸出量ランキングで19位にとどまっていた中国国内トップ輸出港の上海は2013年までには世界トップのコンテナ港へと成長しました。その他の中国国内の輸出港も急成長を遂げました。
 また中国は10年で6倍と言うこうした輸出量の急激な増大に伴い、国内の電力供給網も完備するべく発電所の建設を大規模かつ急速に進めるようになりました。こうして中国はアメリカ合衆国の実に1.2倍の電力を供給できるまでになったのです。
 この他にもインターネット網をはじめとする通信系インフラの整備によって2014年にはインターネット利用者が人口の約半分にまで達しました。
 さらに人の行き来を便利にするための高速旅客鉄道の大建設計画も2003年からスタートしていました。これは日本の新幹線をモデルにしたものでした。






2020年10月19日月曜日

習近平政権と公営住宅建設、およびアジア通貨危機以降の国営高速道路の建設




はじめに

 中国では1998年の住宅民営化から住宅市場がブームになっています。そしてそれはどうやらアメリカ合宿国が2007年に経験したような住宅バブルではなく、今後も堅実さを維持するものと考えられています。
 しかし一見安定している中国の住宅市場にも大きな問題があります。それが住宅市場が二層に分断されているという中国特有の状態です。この二層の内、一方は供給過剰になっている高所得者向けの高級住宅市場、もう一方は供給不足が問題になっている移住者・低所得者向けの低価格住宅市場です。こうした問題を意識し始めた中国政府は解決策としてより高い頭金やローン利率の設定などを通じて高級住宅の購入規制を強めたり、低所得者向けの公営住宅建設計画を地方に命令したりしました。
 しかしこうした対策もほとんどうまく行きませんでした。公営住宅建設計画については、地方では作りのもろい不良マンション・アパートが適当に増築されるだけでしたし、上海などの大都市では逆に高所得者向けのスラム住宅のリフォーム事業が活発になりました。
 今回は今後中国において公営住宅を含めた低所得者向け住宅が増築される見込みがどれ位あるか、また中国において住宅建設と親戚関係にあるインフラ建設はどれ位活発に進められてきたのかを見て行きます。

中国における今後の低所得者向け住宅支援

 次の10年間で、中国政府からの低所得者向け住宅への直接の助成金や抵当保証を通じての間接的な援助はかなり進むと見込まれています。アメリカ合衆国では連邦住宅抵当金庫が抵当保証を行っていますが、これと同じ事が中国でも行われるという事です。
 これらが上手く進めば、近い将来、低所得者でも助成金を得て比較的低価格で住宅を購入できる様になるでしょうし、住宅ローンを組む場合でも、抵当保証があるのでもし入居者がローンを返済できない状態になっても自分達の住んでいる住宅を担保にとってもらう事で自己破産のリスクを回避出来るようになるでしょう。
 ただ、習近平政権は中国経済において市場原理こそが強く働くべきだと考えているので、こうした政府による公的な住宅支援政策と言うのはある意味中央政府との間に緊張を生むものかもしれません。

改革初期のインフラ建設

 話を40年ほど前に戻します。
 中国では1978年末に改革開放が始まり、本格的に経済が改革されていきます。これに伴って都市化が進み、農村から都市へ労働者が次々に流れ込み、彼らが住む為の住居や寮の建設、またその中での生活を可能にするためのインフラ建設への需要が急激に高まります。こうしてインフラ支出ブームが起きるようになったのです。
 中国が改革時代の初めの20年間に重点的に行ったインフラ投資は、主に道路や港と言った陸、海の輸送網および電線などの通信ネットワークに対するものでした。

アジア通貨危機への対応としての1998年の財政刺激策

 1997年からタイを中心にアジア各国の通貨価値が下落した、いわゆるアジア通貨危機が起きます。中国政府はこの対応として1998年に財政刺激策を発動します。その主要項目は特別債を発行する事によって得られた融資をインフラ建設に充てる事でした。アジア通貨危機という逆境が中国のインフラ建設への投資を活性化させたのです。
 考えてみれば1998年と言うのは住宅民営化が始まった年でもあり、その後住宅建設件数が急激に増加し始める契機となった年です。住宅への需要が高まっていくと言う背景の中でそれとセットの事業であるインフラ建設への投資が盛んになって行ったのですね。

国営高速道路の建設

 1998年に中国でアジア通貨危機を乗り越える策として打ち出された財政刺激策の中で、インフラ建設への投資が主要な項目でした。
 では実際にどの様な種類のインフラが建設される様になったのでしょうか?
 主な費目としてアメリカ合衆国の州間高速道路システムをモデルにした国営高速道路網を中国国内に建設する事がありました。この計画は見事に成功しました。
 1997年には5,000キロメートル足らずしかなかったこの国営高速道路は7年後の2014年には20倍以上の総延長の112,000キロメートルにまで達しました。これはアメリカ合衆国の州間高速道路システムのおよそ1.5倍に相当する長さです。
 他のインフラ建設計画もこの国営高速道路網の建設に続いて次々に実現されていく事になります。

まとめ

 中国の住宅問題である公営住宅建設が今後どのくらい進む見込みがあるか、そして住宅建設と近しい事業であるインフラ建設が改革開放以降具体的にどの様に進められてきたかを見てきました。
 現政権である習近平政権は市場原理を中国経済の主役に据えたいと考えている事から、政府による低所得者向け公営住宅への支援は中央政府との間にある種の緊張状態を生みかねない事が分かりました。
 また中国では改革初期の20年(1978年~1998年)で都市化と共に、道路、港、通信ネットワークなどのインフラ建設が重点的に行われてきました。そして1997年のアジア通貨危機を境に、財政刺激策の一つとして大陸内輸送における重要なインフラである国営高速道路網が建設される事になり、2014年までにアメリカ合衆国の州間高速道路の1.5倍の規模にまで建設が進みました。
 そして他の種類の大規模インフラもこれに続いて次々に建設されるようになって行きました。これについてはまた次回以降お伝えしますね。






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