2020年11月11日水曜日

高速鉄道建設ラッシュに見る中国のインフラ建設の正当性




はじめに

 中国では1998年の住宅民営化以降、住宅建設と並行してインフラ建設も急ピッチで進められました。1997年に起きたアジア通貨危機に対する財政刺激策として中国政府が特別債の発行を通してインフラへの投資を推進したのです。
 それ以降、港や発電所、インターネット網、高速旅客鉄道などが次々に建設されました。こうしたインフラ建設によって物流は効率化され、中国経済の成長は一層加速する事になります。
 しかしこうした膨大なインフラ建設劇は純粋に需要だけに応えたものではありませんでした。実際には金融機関の非常に低い利息率や地価の急激な上昇などが中央政府からの政策的圧力を感じていた地方政府にインフラ建設をより容易に、そして向こう見ずに行わせていたのです。また中国の管理階層に属する地方政府の役人たちの出世欲もインフラ建設を過剰に加速させた要因の一つでした。
 その結果、中国では本当に必要かどうか疑わしい様な途方もない規模でインフラが建設されてきました。では中国のインフラ建設に無駄があるかと言うと、そうとも言い切れないのです。何故なら中国にはアメリカ合衆国と同じ位の国土、14億という人口、年10%と言うとてつもない経済成長率がある事を考慮しなければならないからです。この年率10%というのは7年ごとに経済規模が2倍に膨らむという事ですから、インフラもそれに合わせて加速度的勢いで建設する必要があるのです。
 今回は外国から見て中国のインフラ建設が一見過剰で向こう見ずに思えても、実際にはそれは中国国内の需要に応じた正当なものであるという事を、高速鉄道建設を例にとって解説して行きます。

中国における高速鉄道建設が批判される理由

 中国という国の規模や経済成長のスピードなどを考慮すれば、いくら外国から「向こう見ず」「無駄」と批判されようがとりあえずインフラを建設して、後で疑問を提示する方が理にかなっているかもしれないのです。中国では7年ごとに経済規模が2倍に膨らんで来たのですから、きちんと稼働しそうなものであれば、発電所であれインターネット網であれ、取り敢えず建てるべき、という事です。もし妥協してこの建設速度を緩めれば、十分豊かであるにもかかわらず近代的なインフラ設備を利用できないという層の人々が国内に大量に発生してしまうという危険もあります。
 中国はインフラであれば何にでも軽率に投資をしている様に見えるかもしれませんが、それは飽くまでも外国から中国を見た時の印象に過ぎません。中国ではインフラへの投資を決定する理由はそんなに単純ではありません。利益になるという事以外に動機があるという事です。だからインフラ建設の必要性について中国以外の先進国と中国とを単純に比較する事は出来ないのです。この事は中国における高速鉄道網建設計画の例に顕著に表れているのでこれついて以下で解説しましょう。
 この高速鉄道網建設計画はしばしば国内外から批判されていました。その批判理由にはいくつかありますが、一つ目の理由は、中国はまだ高速鉄道の様な贅沢品を備え付ける事が必要な程、経済的に成熟し切っていないと言うものです。そして二つ目に、高速鉄道の建設はあまりにも高額であり、実際に運用されても採算が取れる見込みがなく、また建設ペースについてもあまりに速く向こう見ずである、と言った理由があります。これらの批判の正当性について以下で検証していきます。

高速鉄道は中国にとってまだ不必要な贅沢品か?

 まず中国の高速鉄道建設を批判する理由の一つ目、中国は高速鉄道の様な贅沢品が必要な程発展していない、と言う主張について考えてみましょう。確かにアメリカ合衆国や日本、イギリスなどの先進国から見れば、比較的最近経済成長を遂げた中国をこのようにまだ未熟な国と見なすことが出来るかもしれません。
 しかしそれはお高くとまった実にナンセンスな視点と言えるでしょう。日本を考えてみてください。日本は1964年、東京オリンピックが開催された年に史上初の新幹線を開通しましたが、この時の一人当たりのGDPは2007年の中国におけるものと同じでした。そしてこの際、この新幹線の運用開始は国内外で大いに称賛されたのです。何故2000年代になって中国が高速鉄道を敷く事を批判されなければならないのでしょうか?その理由などどこにも見当たらないのです。この事を考えれば、この高速鉄道は単に贅沢品というよりは、非常に実用的なインフラとして富裕層のみならずより一般の人々にも活用され、中国国内の人と物の移動をより効率化することが出来るはずなのです。

高速鉄道は高価すぎるか?

 中国の高速鉄道に対する批判のもう一つの理由、この高速鉄道はあまりにも高価である、と言う主張はどうでしょうか?ちなみに、これは主に中国国内の批評家によって主張されている事です。
 これはある程度合理的な異議に聞こえます。中国国内を網羅すべく、鉄道の建設規模が必然的に大きくなる為、採算が取れなければ大変な損失になるからです。しかしこの批判についてもきちんと反証することが出来ます。確かに高速鉄道は労働力や地価が高い日本などの裕福な先進国では建設するのに非常に大きなコストがかかるでしょう。これは周知の事実です。
 しかし中国の場合はどうでしょうか?中国では都市部はともかく、地方ではまだまだ地価や労働力は安く、また建設資材も低価格で手に入ります。そのため鉄道の路線1キロ当たりの建設費用も裕福な先進国の場合に比べてかなり安くすることが出来ます。だから中国国内で高速鉄道建設が高価になる、と言う心配は実際にはそれほど無いのです。

高速鉄道を建設する重要な理由:旧設備の稼働率の異様な高さ

 中国が高速鉄道を建設しようとしている重要な理由に、旧来の鉄道網の設備稼働率(一本の列車で一日当たりどれだけの量の人や物を運ぶかを数値化したもの)の異常な高さがあります。アメリカ合衆国やEU、日本などの主要国の設備稼働率の何倍も高いのです。簡単に言えば中国では古い既存の鉄道網が人や物で溢れかえっており、それが片時も休む事無く運行しているのです。例えば2008年に中国は世界の鉄道路線の総距離の6%しか持っていませんでしたが、輸送量で言えば、全世界の鉄道交通量(ton)のおよそ25%もを輸送していたのです。
 こうしたデータを見れば、中国は高速鉄道の導入によって人と物の輸送を効率化し、こうした容量オーバーの状態から抜け出さなければならないと言う事が理解出来ると思います。だから中国の高速鉄道建設は十分に正当なものなのです。

まとめ

 中国の1997年以降の一見過剰とも言える大規模なインフラ建設の正当性を、高速鉄道建設を例にとって見てきました。
 中国の高速鉄道は、まだ発展しきっていない中国には贅沢品であるとか、あまりにも高価であるなどの理由で批判されてきました。
 前者の批判については日本の例によって反証できます。日本は一人当たりのGDPが2007年の中国と同じであった1964年に新幹線を開通していたのです。これを考えれば中国が2003年に高速鉄道の建設に着手した事は決して早すぎる事では無かったのです。
 また、高速鉄道は高価すぎる、と言う後者の批判については、中国の地方の安い土地、労働力、建設資材を用いてこれを建設する事を考慮すれば反証出来ます。高速鉄道建設が高価になるのは日本の様な裕福な先進国においての場合なのです。
 また、中国が高速鉄道を何とかして完成させなければならない理由として、既存の鉄道の稼働率が他の先進国と比べて何倍も高く、列車が人や物で溢れかえっていると言う実態がありました。高速鉄道導入によって人と物の移動を効率化し、この容量オーバーの状態を改善しなければならなかったのです。






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