はじめに
1990年代後半に起きた中国の住宅民営化(それまで国有だった住宅の自由市場への参入)は、不動産の自由な売買への参入を通して都市部世帯を急速に豊かにして行きました。
今回は何故中国の住宅価格が住宅民営化後10年以上に渡り上昇し続ける事が出来たか、その理由と住宅民営化の影の部分、つまり幸福な家庭とそうでない家庭を生んだ不平等や不公平の増加に焦点を当てて解説して行きます。
住宅価格の上昇が長期間続いた理由
まず住宅の初期価格が極めて低かった事がその理由の一つでした。中国では1990年代後半の住宅民営化までは住宅は原則国家が所有・管理していたので、そこには市場原理が働いておらず、従ってそれ以前の数十年間住宅価格が変わることがなかったのです。市場原理がはじまったスタート地点での価格が極めて低いのですから、住宅の需要と供給がバランスするまで時間と共に住宅価格が上昇する事になります。
もう一つの理由は、同じく住宅民営化の初期段階において住宅供給が非常に不足していたという事です。都市世帯や不動産開発業者からの膨大な需要があるにも関わらず供給が極めて少ないのですから、価格は上昇せざるを得ません。そして一度自由市場的な条件が中国の住宅市場に定着すれば、この価格上昇が需要と供給がバランスするまで続くのです。
住宅民営化によって中国都市部の恵まれた世帯は彼らの所属する単位(労働を媒体として市民を管理・支配していた中国特有の組織)から市場から隔離された格安の内部価格で住宅を購入できました。彼ら恵まれた都市部世帯はこうして容易に住宅を購入することが出来、その市場価格が上昇した後でそれらを売却することで莫大な富を蓄えることが出来たのです。しかも彼らは売却するまでの期間、購入した住み心地の良い高級な住宅に住むことが出来るのです。都市部世帯が享受したこうした富は正に中国政府からの優遇による賜物だったのです。数字にして何千万世帯という都市部の家族がこうして急速に豊かになったのです。
住宅民営化の光と影
住宅民営化によって中国都市部の恵まれた世帯は彼らの所属する単位(労働を媒体として市民を管理・支配していた中国特有の組織)から市場から隔離された格安の内部価格で住宅を購入できました。彼ら恵まれた都市部世帯はこうして容易に住宅を購入することが出来、その市場価格が上昇した後でそれらを売却することで莫大な富を蓄えることが出来たのです。しかも彼らは売却するまでの期間、購入した住み心地の良い高級な住宅に住むことが出来るのです。都市部世帯が享受したこうした富は正に中国政府からの優遇による賜物だったのです。数字にして何千万世帯という都市部の家族がこうして急速に豊かになったのです。
しかしその一方で、そうした利益を享受できなかった不幸な世帯も多くあった事を忘れてはいけません。つまり結局は恵まれた者が得る事ができた利益と言うのも、こうした恵まれない者の支払った代価によってもたらされていたのです。そしてここに中国都市部での不平等と不公平が存在していたのです。以下ではこの二者それぞれにクローズアップして解説して行きます。
一言で言えば、彼らは国が所有している住宅、即ち単位が管理している住宅に住む人々でした。住んでいる住宅が国所有のものである場合に、それを格安で購入できたのです。この際、政府からの助成金などのさらなる優遇措置もありました。そして数年後にはこの格安物件の価格が自由市場で何倍にも膨らみます。それを売却する事で大きな利益を得る事ができるのです。
そしてもし、その世帯の夫婦が共に単位から住居を割り当てられていれば、住宅民営化による恩恵も2倍になったのです。この場合、格安で購入できる住居が2つあると言う事だからです。さらに、彼ら夫婦がその両親から住居を相続していたなら、それに応じて利益もさらに増加した事でしょう。
つまり住居や家の居住権を複数持っている家庭はそれに応じて何倍もの利益を得る事ができたのです。住宅民営化の恩恵を大いに享受できた世帯と言うのは国有住宅の居住権を複数持っている世帯だったのです。
一方で、こうした恩恵を受ける事ができなかった世帯とはどんな世帯だったのでしょうか?彼らは住宅民営化が行われた1990年代後半~2000年代前半に運悪く国有住居に住んでいなかった人々です。または国有住宅に住んでいても初期の市場に参入するだけの資金が手元に無かった人々の事でもあります。 つまり中国で市場原理が始まって間もない時期の格安の内部価格にすら手が届かなかった世帯という事です。
恩恵を享受できなかった世帯
一方で、こうした恩恵を受ける事ができなかった世帯とはどんな世帯だったのでしょうか?彼らは住宅民営化が行われた1990年代後半~2000年代前半に運悪く国有住居に住んでいなかった人々です。または国有住宅に住んでいても初期の市場に参入するだけの資金が手元に無かった人々の事でもあります。 つまり中国で市場原理が始まって間もない時期の格安の内部価格にすら手が届かなかった世帯という事です。
国有住居に住んでいなかった世帯は先述の恵まれた世帯の様に単位から格安の内部価格で自分達の住む住宅を購入する権利がありませんから、労苦により稼いだ彼らの僅かな貯金をはたいて当時市場原理により価格が上昇し続けていた住居を購入しなければなりませんでした。
ちなみに当時の住宅価格の上昇スピードは、世帯収入の上昇よりも速かったという報告が少なくともいくつかの都市でありました。要は政府からの支援や優遇なしで都市部の住居を購入するなどと言うのは一般家庭の収入では極めて厳しいものだったのです。
1990年代後半から中国の住宅民営化、即ち国有住宅の自由市場への参入、が都市部の世帯にもたらしてきた恩恵と、その原因となった住宅購入条件における世帯間の不平等、不公平を見てきました。重要な事は、単位の所有・管理していた住居にその世帯が住んでいるかどうかで、その世帯が住宅購入の際に国家から受ける待遇が大きく違ったという事です。
まとめ
1990年代後半から中国の住宅民営化、即ち国有住宅の自由市場への参入、が都市部の世帯にもたらしてきた恩恵と、その原因となった住宅購入条件における世帯間の不平等、不公平を見てきました。重要な事は、単位の所有・管理していた住居にその世帯が住んでいるかどうかで、その世帯が住宅購入の際に国家から受ける待遇が大きく違ったという事です。
もしそうであれば政府からの資金援助を受けた上で格安で住宅を購入出来、後に上昇した市場価格でそれを売却する事で莫大な利益を得る事ができました。
そしてもしそうでなければ僅かな貯金をはたいて高価な市場価格の住宅を優遇なしでそのまま購入しなければなりませんでした。
結局は後者が犠牲となって前者の利益となっていたという事です。