2020年9月7日月曜日

住宅民営化が中国社会に生んだ巨大な亀裂




はじめに

 1990年代後半に行われた中国の住宅民営化は、都市部の国有住宅居住者にとてつもない利益をもたらしました。彼らは政府からの支援を得た上、格安の内部価格で住宅を購入し、後にそれを市場価格で売却する事で膨大な利益を得ていたのです。その一方で、そうした条件にそぐわない不幸な家族は、僅かな貯金をはたいて高い市場価格の住宅を購入しなければなりませんでした。ここに住宅民営化の影の部分、すなわち不平等や不公平があったのです。  
 今回はこうした不平等が具体的にどの様なものだったのかを田舎から都市への移住者の住宅環境などに焦点を置いて見て行きます。

都市戸籍所有者の格上げ需要

 住宅民営化は結局、田舎に戸籍を持つ貧しい人々が都市部の住宅を購入し、そこへ移住する、と言うような、サクセスストーリーを実現する事はありませんでした。得をしていたのはあくまでも都市戸籍を持ち、国有住宅に住んでいた恵まれた家庭だけだったのです。  
 住宅民営化によって起きた2000年から2010年にかけての凄まじい勢いの住宅ブームというのも、実質はこうした恵まれた家族が古い家から新しくより良い家に移り住もうとする事によって生じる、いわゆる”格上げ需要”によって営まれていたのです。  
 一方で農村から都市への移住者からの住宅への需要と言うのはほとんどありませんでした。何故なら、彼らは都市戸籍を持つ家族とは違い、高い市場価格で住宅を購入しなければならず、彼らの乏しい貯金ではそんな事はとても出来なかったからです。

インサイダーゲームと化していた住宅市場

 中国における改革開放以降の田舎から都市への大量移住というのはあまりにも有名ですが、この”移住”と言うのは決して彼ら農村出身者達が都市部のよりよい住宅にそのまま住めるようになったと言う意味ではなかったのです。彼らの住宅への要求と言うのは適当にあしらわれ、その一方で恵まれた都市戸籍所有者達は住宅市場で莫大な利益を得たのでした。こうした住宅市場の様子は正しく都市戸籍所有者の”インサイダーゲーム”と呼ぶにふさわしいものでした。

住宅所有率で見る格差

 2012年までに研究者達が中国の家庭が農村-都市の戸籍別にどれだけの割合で住宅を所有しているかを様々に調査し、その結果を提示しました。その結果は驚くべきものです。都市戸籍所有者の場合、住宅所有率は70~80%、移住者(農村戸籍所有者)の場合、それは10%以下だったのです。前者の数字は近年のアメリカ合衆国の住宅所有率よりも高いものです(アメリカ合衆国の住宅所有率は2004年に69%となりピークに達しました)。  
 そして後者の数値は、移住者達がほとんど家を持てていないという状況を示すものです。 彼ら移住労働者達は、家を持たない代わりに、会社寮か、建物の地階または防空壕に作られた地下アパートか、あるいは都市郊外にある農場家屋を多少改築したものなどに住んでいるのです。 つまり都市戸籍所有者だけで中国を見るならば、その住宅所有率はアメリカ合衆国などの先進国並み、或いはそれ以上なのです。こうした数値からも中国の”部分的な都市化”という実態を読み取る事ができます。

住宅民営化と中国社会に出来た亀裂

 以上に見てきたように、中国の住宅民営化は恵まれた都市戸籍世帯とそうでない農村世帯の間に大きな不平等の亀裂を生じさせました。そして住宅民営化は中国政府があからさまに都市をひいきしている事の表れでもあります。  
 何故公然とこうした都市ひいきが行われるかと言うと、それは都市部の不満を無くす事が1989年に起きた天安門事件のような悲劇を繰り返さない事だという事を政策立案者達が信じているからかもしれません。  
 この亀裂がなくなるためには、政府が移住者達に都市戸籍を与え、インサイド(都市)とアウトサイド(農村)の境界を無くして平等に市場に参加できる環境を作らなければならないでしょう。しかし農村部の膨大な人口を考慮するとそれは都市の生活水準を保つ上で極めて危険な決断である事も事実です。

まとめ

 2000年から2010年にかけて、住宅民営化が実際には都市戸籍所有者達が独占的にそして簡単に利益を得る事が出来るだけのインサイダーゲームと化していた様子を見てきました。一方の移住労働者達はおよそ住居とは呼び難い劣悪な環境に暮らしていました。そしてそうした実態を裏付けるように、都市戸籍所有家族と移住家族との間で住宅所有率に雲泥の差がありました。
 結局、住宅民営化は一部の恵まれた都市世帯を豊かにしただけで、農村と都市との格差はますます開いていく事になったのです。この不平等の亀裂を無くすべく、政策立案者達も戸籍に関する新たな制度の導入などを考えていますが、膨大な人口を抱える中国社会において、これは難しい問題です。






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