2020年9月16日水曜日

胡錦濤政権による農村政策と格差の是正




はじめに

 都市部の不満が爆発した結果引き起こされた1989年の天安門事件以降、中国の経済改革はそれまでの農村重点型のものから都市重点型のものへと移行していきました。
 江沢民(こうたくみん)国家主席の指導の下、都市部では私企業の進出が促進され、商品価格も次々に自由化されます。また労働者の都市への移動制限も緩和されます。1990年代、これらの政策によって中国都市部が急激に成長する事になりますが、一方で農村はこうした自由化がなされず、その経済は停滞したままでした。これにより、都市-農村格差が拡大していきました。
 今回は1990年代に広がりを見せた都市-農村格差が2000年代に入って是正されていく様子を胡錦濤(こきんとう)政権の政策に焦点を当てて見ていきます。

胡錦濤政権の誕生とその農村政策

 2002年後半から実権を握るようになった胡錦濤国家主席と温家宝(おんかほう)首相による胡錦濤政権は、それまでの都市ひいきを是正し、農村収入を増加させ、都市と農村の様々な格差を解消しようと努めました。中国では古くから、都市と農村の格差の原因となっている農村三問題(農業、農村、農夫の問題)と呼ばれる農村特有の問題が議論されてきました。胡錦濤政権は広範な政策を展開し、この農村三問題に真っ向から取り組みました。
 政府は2006年に、それまで低く抑えられていた、政府による穀物の買い上げ価格を急激に引き上げ、同時に農産物への課税を廃止しました。これによって農夫の収入を増加させようとしたのです。
 政府は次に、農村世帯がより暮らしやすくするために農村の生活基盤の改善を図りました。具体的には、農村の道路やインフラへの大規模な投資を促進したのです。さらには、農外雇用を生み出すことを目的に、食品加工工場への投資も促しました。
 中国の農村の本格的な近代化が比較的最近である2000年代に胡錦濤政権によって行われていたのです。ちなみに胡錦濤自身は学生時代、水力工学を専攻していたこともあり、こうした農村へのインフラ導入には非常に適したリーダーだったと言えます。

農村における社会サービスの充実

 学校や医療、社会福祉などの社会サービスと言うと、それまでの中国では都市戸籍を持つ市民しか利用できないものでした。そこで政府は2006年から農村の社会サービスネットワークの再構築を始めます。それ以前の20年間の改革によって、農村の社会サービスの仕組みは分解されていたのです。
 まず、2006年には農村世帯の子供が受ける9年間の義務教育が無償化されました。さらに、2007年には農村における新たな共同医療制度が始まりました。つまり農村住民がお金を出し合って、病気になった人が低価格で医療を利用できる状態になったのです。こうして基本的な健康保険が提供されるようになりました。また同時期に、最低限所得保障(ベーシックインカム)の制度が都市部から農村地帯にまで拡大されました。
 これらの政策によってより多くの農村住民が安心して生活を営む事が出来る様になりました。2000年には農村人口の僅か13%しか健康保険を持たなかったのが、2013年には実質全ての農村居住者が何らかの健康保険を持つことが出来る様になったのです。
 2006年からの僅か十年足らずで農村世帯の暮らしが社会サービスによって急激に改善されていったのです。逆に、日本で当たり前と言われている社会サービスが中国の農村で適用されるようになったのがかなり最近である事も分かります。

年金制度の農村への導入

 2000年代半ばから起きた中国農村部での社会サービスの再構築の中でも、特に重要なのが年金制度の導入です。これは2009年に導入され、中国の歴史上初めて農村世帯に老齢年金の現金支給を保証する制度でした。高齢になり、農業に従事する事が難しくなった農夫たちにとって、この年金制度は老後の生活を支えるこの上ない安心材料となりました。
 2013年にはおよそ2億4000万人、つまり農村人口の40%近くにこの年金が適用されていました。それでも40%程度にとどまっている様子を見ると、農村ではまだまだ財源が乏しいという事でしょうか。都市部の潤沢な財源を農村に移管する事ができれば、この数字はもっと膨らむでしょうが、農村と都市の間の処遇の不平等と言うのは中国社会に今でも根強く残っているのが現状です。

数字で見る都市-農村格差の縮小

 こうした諸政策によって、都市と農村の社会的または経済的な格差はかなり是正されたと言えるでしょう。実際に、都市部平均所得と農村平均所得の比率は2007年に3.3倍でピークに達して以降、固定化する様になり、2010年以降は減少に転じています。2014年ではこの数値は3.0以下にまで下がっているのです。

まとめ

 2000年代に入って胡錦濤政権が農村の三問題、即ち農業、農村、農夫の抱える問題を如何に是正してきたかを見てきました。
 中国の2000年代は穀物の買い上げ価格の引き上げや農産物への課税の撤廃、道路や水道などのインフラ整備、そして健康保険や年金などの社会サービスなどの大幅な拡充など、農村の暮らしを社会的、経済的に豊かにする政策が目白押しでした。そしてこの結果として、都市と農村の格差が縮まりを見せている事も数字によって確認出来ました。






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