はじめに
中国農村部では、農夫達の耕作する農地に関する彼らの権利が大きな問題になってきました。彼らは農地を使用する権利はあっても、それを所有する権利は持っていないのです。これは都市部の世帯の持つ完全な形の財産権と比較すると大きな違いです。
都市世帯はこの財産権を利用して不動産売買も自由にできた為、それによって莫大な利益を得る事も出来ましたが、一方の農村世帯にはこうした不動産の自由な売買と言うのが一切認められてこなかったのです。
農村では都市戸籍を持たないという事が財産権にも大きな影響を及ぼし、それによって富や収入にも大きな格差が出来てしまっているのです。
今回は彼ら農夫達の土地使用権が改革開放以来、政府によってどの様に改善されてきたのかについて見ていきたいと思います。
1980年代の世帯農地の使用権改革
1978年末に改革開放が行われ、趙紫陽と万里の政策の下でそれまでの集団で農地を管理・耕作する体制(人民公社)は廃止され、農地が各世帯に返還され、それら家族が比較的自由に農地を耕作できるようになりました。初めは1年から3年だった世帯農地の使用契約期間も徐々に延長されるようになり、1980年代半ばまでには15年にまで引き伸ばされました。
15年間も自由に耕作できるのなら、農夫達も長期的な展望を持って設備投資なども比較的気軽に出来そうに思えますが、実際にはこれらの権利は非常に不安定なものでした。と言うのも当時、彼らの土地はまだ集団、即ち村全体によって所有されており、契約期間中に村の当局が各家庭に割り当てられた耕作用の土地小区画を配置転換してしまう事が普通に起きていたのです。農夫世帯がせっかくそれまで一生懸命に自分達家族の土地を耕作してきたのに、契約期間の途中でこの土地が別の家族の手に渡ってしまえば、それまでの努力は無駄になってしまい、また新たな土地で耕作を始めなければなりません。1980年代中国農村ではまだこの様な理不尽が頻繁に起きていたのです。
1980年代に農村で普通に見られた村当局によるこの土地の配置転換ですが、これがどれ位権力を持っていたのかを見ていきましょう。
村当局による配置転換の権力
1980年代に農村で普通に見られた村当局によるこの土地の配置転換ですが、これがどれ位権力を持っていたのかを見ていきましょう。
もちろん、配置転換はいい目的で行われる事もありました。例えばその農夫家族の人数が増えたために、それに対応してもっと広い耕作用地を与える事になる様な場合ですね。
しかし、配置転換には恐ろしい面もありました。もしその農夫世帯が村の党書記の機嫌を損ねるようなことをしたとしたら、この配置転換によってその世帯はより劣悪な耕作用小区画を与えられ、その劣った環境で農業を営む羽目になる事もあり得たのです。当時はまだ村にも当局の権力と言うものがあり、農夫達はその機嫌を窺いながら細々と農業をしなければならなかったのです。
この様な耕作用地の配置転換の習慣のせいで、農夫達が今後どれだけ長く自分達の耕作用区画を耕作する権利があるのかは不確かになり、農夫達の将来に不安が生じていました。自分達の育ててきた土地をいつ取り上げられるか分からない状況では、安心して耕作に励む事が出来ないのは当然ですね。その為に彼らは自分達の農業に大きな設備投資をする事にも消極的だったのです。
1990年代の農地に関する法律の改定
この様な耕作用地の配置転換の習慣のせいで、農夫達が今後どれだけ長く自分達の耕作用区画を耕作する権利があるのかは不確かになり、農夫達の将来に不安が生じていました。自分達の育ててきた土地をいつ取り上げられるか分からない状況では、安心して耕作に励む事が出来ないのは当然ですね。その為に彼らは自分達の農業に大きな設備投資をする事にも消極的だったのです。
そうした設備投資を実りあるものにする為にはとにかく安定した土地の使用期間が必要でした。そこで政府は農夫達の土地使用権を長くし、また同時にこれを強化する事に重大なエネルギーを投じてきました。
1993年に農地の標準契約期間は30年にまで延長され、この期間は1998年の土地管理法に記入されました。地方の共産党の権力が農地の配置転換を頻繁に起こしていたのも事実かもしれませんが、同時にこうした問題があった時にそれを解決すべく法律を書き換えるのが容易なことも共産党一党独裁の中国という国の利点なのかもしれません。
法律に農地の使用期間が明記されるようになったのですから、村当局も容易には農夫から農地を取り上げて配置転換したりは出来なくなったでしょう。
こうして1990年代に改善が進んだ農地使用権ですが、2000年代に入ってこの権利がさらに正式なものになって行きます。2004年に農村土地契約法と言う法律が制定されます。この法律によって、農地の使用権は契約書に正式に書き入れられなければならなくなり、さらに村当局は契約期間の終了前に勝手に土地を配置転換する事は出来ない、と定められました。そして配置転換には村会の2/3の投票が必要になったのです。
2000年代に正式化された農地使用権
こうして1990年代に改善が進んだ農地使用権ですが、2000年代に入ってこの権利がさらに正式なものになって行きます。2004年に農村土地契約法と言う法律が制定されます。この法律によって、農地の使用権は契約書に正式に書き入れられなければならなくなり、さらに村当局は契約期間の終了前に勝手に土地を配置転換する事は出来ない、と定められました。そして配置転換には村会の2/3の投票が必要になったのです。
こうして2000年代半ばになって、ようやく中国の農夫達にも本当の意味で自由に自分達の農地を耕作できる権利が与えられるようになったのです。さらに2007年の不動産法は農夫達の土地使用権が個人の財産権の一種であると定めています。農夫達はまだ土地を所有は出来ないけど、与えられた土地を自由に使って作物を栽培し、それによって利益を得る事が出来る様になったのです。
農夫達の土地使用権が過去30年以上かけてどの様に改善されて来たのかを見てきました。
まとめ
農夫達の土地使用権が過去30年以上かけてどの様に改善されて来たのかを見てきました。
改革開放直後の1980年代は、使用契約期間中でも平気で耕作用地を配置転換されていました。
これでは農夫達が効率的に農業を営めないという事で、1990年代に入ってから徐々に法律に彼らの農地使用権が明記される様になって行きます。
そして2004年に農村土地契約法が制定され、村当局による勝手な農地の配置転換が禁止されます。中国の農夫達が安心して自由に農地を耕作できるようになったのが2000年代に入ってからだったと言うのは驚きですね。
しかし彼らにはあくまで土地の使用権しか認められておらず、土地を自由に売買する為の所有権や完全な財産権が認められる事は今後の課題です。

