2020年7月26日日曜日

都市部エリート達の思惑と戸籍制度の関係




はじめに

 農村からの移住労働者達が大都市に流れ込む事を避けるために中国政府は戸籍制度による移住の制限をなかなか緩和しようとしていません。都市にやってきても都市戸籍が無ければ、彼らはまともな住居にも住めず、病院にも行けず、子供を学校へやる事も出来ないのです。果たして彼らが平等にこうした都市的な社会サービスを享受できる様にするための解決策はあるのでしょうか?
 今回は中国都市部のエリートや政策立案者達の移住労働者に対する思惑について見て行きます。

理想的な解決策

 移住労働者達が被っている不平等を是正する為の最も単刀直入な解決策は、戸籍制度による移住制限を完全に取り払い、最も大きく豊かな都市、すなわち北京や上海のような大都市に自由に住まわせる事でしょう。そうした大都市には移住者達全員に社会サービスを提供するだけの財源が既に十分にあるのだから、これは決して不可能ではないのです。
 さらに、そうした大都市には多様な職種の質の高い雇用が豊富にあるので、移住労働者達が一度それらの職に就くことが出来れば、彼らの生産性は一気に上昇する事になるでしょう。そうなればこれは中国の将来的な経済成長にも貢献するでしょうし、この経済成長によって都市の財源は膨らみ、社会サービスもさらに拡充する事ができるのです。

戸籍制度はどの程度緩和されているか

 前項で述べた様な理想的な解決策を中央政府がどれだけ検討しているかと言うと、殆ど審議されていません。中国は人口規模が大きい事もあり、アメリカや日本の様に都市を自由に発展させると言う事にはリスクがあるからでしょう。  
 それでは現実には戸籍制度はどれ位緩和されているのでしょうか?数字で見てみましょう。  
 2014年に行われた戸籍制限の緩和政策は、人口100万人以下の小都市への移住は積極的に奨励しました。一方で人口500万人以上の都市への移住は厳重に規制したのです。100万人以下、という事は、日本で言えばちょっとした地方都市の規模はあるわけです。  
 これらの数字を見れば分かるように、農村からの移住労働者達が極端に都市に避けられていると言う事は現在ではもうないんですね。彼らがそうした小都市で就業し、家族を養い、子供を学校に入れてあげる事が出来れば、それは農村での生活に比べて随分と豊かな暮らしと言えます。だから後はそうした小都市での社会サービスが充実しさえすれば、彼らに足りない物は無くなるのです。  
 ただ、小さな都市にその為の財源があるかと言うと、大都市に比べてそれほど充実はしてないというのが現状でしょう。だから大都市の巨大な財源を地方にも平等にいきわたらせる必要があります。つまり都市の平等化が市民の平等化に繋がるという事です。

都市部のエリート達の思惑

 前項で述べた2014年の戸籍制限緩和には、確かに都市部のエリート層(富裕層)の思惑とその政治力が反映されていると言えます。結局、移住労働者達は戸籍制限によって魅力的な大都市には住めない訳です。何故大都市のエリート層が彼ら移住労働者の流入を避けたがるかと言うと、そうした低所得層の流入によってエリート達の都市生活の質が低下する事を彼らが恐れているからです。また、中央の政策立案者達もそうした流入現象による大都市のスプロール化を懸念しており、これも今回の慎重な制限緩和がなされた大きな要因です。

まとめ

 移住労働者達が何故経済の中核的な大都市になかなか住めないのかを、大都市に住む富裕層の思惑を通して見てきました。つまり彼らも低所得者の流入で自分達の生活の質が脅かされる事を心配してなかなか戸籍制度による移住制限を解消しようとしないのです。また都市の秩序を維持する事が仕事の一つである政策立案者達もそうした移住労働者の流入による都市の無秩序化(スプロール化)を懸念しているのです。







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