2020年10月31日土曜日

田園地帯経済の改善の為の三つの改革




はじめに

 中国では農村と都市で不動産に関する財産権に大きな違いがあり、この事が農村―都市の貧富の差の原因になってきました。農村の農夫達は土地の使用権は認められていますが、自由に自分達の農地を売却する事は許可されていません。その為都市化に伴ってその田園地帯が開発される見通しが立っても、その土地を高値で不動産開発業者に売る事が出来ないのです。その代わりに彼ら農夫達の土地は近郊の都市政府によって不当に安い値段で大量に買い上げられてしまい、そこから都市部の不動産開発業者に転売されて来たのです。つまり得をするのはいつも都市政府や都市の不動産開発業者であり、農夫達はその仲間に入れないのです。
 一方の都市家族は完全な財産権を持っており、自分達の住宅や土地などの不動産を自由に市場価格で売却する事が出来ました。特に1998年から2003年の住宅民営化計画では国有住宅に住む都市家族は格安の内部価格でそれらを購入し、後に高価な市場価格で売却する事で莫大な利益を得ていました。
 現在でも田園地帯の土地は集団所有する事が大前提となっており、農夫個人が自由に土地を売り買いすることは出来ません。また中国には食糧自給を保障する目的で農地の総面積に下限が設定されており、これが農地を開発目的で自由に売却する事を一層困難にしているのです。
 今回はこうした制約の下で中国政府が農村の田園地帯経済をどの様に改善して行こうとしているのかを見ていきます。

中央政府が現在追及している田園地帯経済の改革

 冒頭で述べた様に、中国政府は農村の土地を集団で所有する事を神聖視しており、また国家の食糧自給を保障する目的で農夫個人が容易に彼らの農地を開発向けに転売できない様になっています。
 しかしこうした制約の中でも中国の中央政府は不動産売買による経済活性などでは無く、農村には農村の健全なやり方で田園地帯経済を作る事を追求しています。 その為に必要な改革が大きく分けて三つあります。一つ目は農夫達の土地権(もちろん個人による所有権は除く)を強化する事。二つ目は機械化された大規模農業を促進する事。そして三つめは都市化ならぬ“町化”を通して農村地帯を健全に作り変える事です。

第一の改革:土地使用権の改善

 これらの三つの改革のうち、一つ目の“農夫の土地権の強化”について説明しましょう。
 2013年の三中全会およびそれに続く政策文書で強調されていたのは、田園地帯の土地の登録(農夫が30年間自由にその土地を使用出来る事を正式に認める為の登録)件数を増やす事、そして農夫達が農地の使用権を公開市場で買ったり、売ったり、また抵当に入れる事が出来る権利を強化する事の必要性でした。都市部家族が持っている財産権の様に土地を売買する権利では無く、あくまで土地を使用する権利を売り買いする権利を大いに認めて行こう、と言うのです。
 しかしここで問題があります。田園地帯の土地の正式な登録には、土地の小区画の境界の調査や、その土地の所有者を公の登録簿に記入する事など、かなりの労力がいるのです。このプロセスを経ないとその土地の財産権は有効にならないのです。こうしたプロセスを全ての農村の田園地帯に施す事が困難な理由を以下で説明します。

農村の土地の登録が困難な理由

 中国の田園地帯で登録が為されているのは50%を僅かに超える割合に留まっています。そして全ての田園地帯の登録完了には恐らく少なくとも後10年はかかるだろうと予測されています。
 何故登録がこの様に中々進まないのかと言うと、多くの場合、農夫家族によって保有されている(使用が認められている)土地は隣接しないいくつかの小区画に分裂している為、その土地の持ち主に対応した境界を定める事が困難だからです。
 また登録自体が困難であるという事以外に、土地が登録されたとしてもその名義人が男性である場合が極めて多いという問題があります。つまり、その配偶者である女性には土地の権利が無のです。実際に登録された田園地帯のおよそ90%は世帯主である男性名義です。もし彼らが離婚してしまえば、ほとんどの農村の女性は農業による収入源を失い貧困に陥る危険があるのです。こうした事態を避けるためにも、これからは性別による差別をなくした土地の登録を推進していかなければなりません。

第二の改革:機械化による大規模農業

 ここまで農村の田園地帯経済を改善する為の改革の一つとして農夫の土地使用権の改善について説明してきました。
 次に重要な改革が農業を機械化によって効率化し、大規模農業に作り変える事です。
 1978年末の改革開放以降、特に1980年代、趙紫陽と万里の農村重点政策によって農村における農業も随分と近代化しました。この時期、例えば化学肥料をふんだんに使用するようになり、また揚水機や小型トラクター、食品加工機なども導入されるようになりました。そのおかげで農業生産高も大きく膨らんだのです。
 しかしその一方で中国政府はアメリカ合衆国などで見られるような大規模な機械化農業を作る事は拒んできたのです。

まとめ

 農村における土地の集団所有という大前提や中国国内の食料自給率を保障する目的での農地総面積の下限(レッドライン)の設定など、農村における不動産経済の成長と言う面でのいくつかの制約の中で、それでも田園地帯経済が改善する様に政府が改革を行おうとしている様子を見てきました。
 政府は一つ目の改革としてまず農夫が彼らの土地“使用権”を自由に売買したり抵当に入れたりする権利を確立する事を重要視していました。しかし土地の登録の際に持ち主と彼に属する土地の境界とを一致させる事が困難である事が問題になっており、今現在でも田園地帯の半分ほどしか登録が為されていません。
 また登録の名義人がほとんど男性である事は、離婚などを考慮した際に彼らの配偶者である女性にとって非常に不利になっていました。
 そして二つ目の改革としては機械化による農業の大規模化がありました。これについてはまた次回に詳しく説明しますね。






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