2020年10月12日月曜日

政府による安価での農地の買い上げ政策




はじめに

 中国農村部では改革開放以降も農夫達が耕作中の土地が村当局によって途中で取り上げられ、他の農夫世帯の下に配置転換されてしまうと言った習慣がありました。農夫による長期的な土地の使用がまだ認められていなかったのです。そこで1990年代から2000年代を通じて政府による法改正が行われ、農夫達の土地の使用権が正式に認められるようになって行きました。これによって農夫達はより安定して長期間、自分達の農地を耕作できるようになりました。
 しかしそれでもまだ、政府は農夫達が彼らの土地を自由に売却できる様な農夫の完全な土地所有権までは認めませんでした。政府は農村世帯が不動産業に参入して大きな収益を得るような事を妨げようとしていたのです。その一方で都市政府は近郊の農村部の土地を低価格で買い上げ、高価格で都市不動産開発業者に売却する事を中央政府に奨励されていました。
 今回は政府のこうした都市優遇的な農地買い上げ政策によってどれだけの富が農夫達から奪われていったのかを、そうした政策の目的と共に見ていきます。

政府による農地の安価での買い上げと農夫達の損失

 農夫達が彼らの農地を自由に売却できないのをいい事に、中国の都市政府は近郊の農地を安価で買い上げ、それを都市部の不動産開発業者に高値で売却し、大きな利益を上げていました。そして不動産開発業者は都市政府から購入した土地に住宅やオフィスを建て、それを購入者に売る事で大きな利益を得ていました。
 こうした政府による安価な農地の買い上げによって農夫達が被った損益と言うのは莫大でした。世界銀行によると、こうした買い上げによって1990年から2010年の間に実に2兆人民元(現在の金額にしておよそ32兆円)もの価値が地方政府によって農夫達から不当に奪い取られました。つまり総計して市場価格よりも2兆人民元安く土地を買い上げられたのです。
 もし農夫達がきちんとした市場価格で彼らの土地を購入してもらい、また同時に彼らが農業などを通して投資した分だけの地価の上昇を投資利益率としてきちんと享受できていたら、彼らの財産は今より5兆人民元(80兆円、或いは中国のGDPの8%)多くなっている事でしょう。

農地の安価な買い上げ政策における政府のもくろみ

 こうして農夫達に莫大な損益をもたらした政府による農地の安価な買い上げ政策ですが、この政策には中国政府の大きな目的がありました。それは政府が農地を買い上げて農夫の仕事場をあえて奪い、彼らの仕事場を農村から都市へ移動させることで都市の経済成長を促すという事でした。
 2000年代初頭までに、中国政府は中国の経済成長を最大化させる最も適した方法とは、即ち出来るだけ多くの人々を出来るだけ早く農地から引き抜き、より生産性の高い都市部の職業に投入していく事である、と言う事に改めて気付くようになったのです。
 現在、中国のGDPに占める農業の割合がたったの9%と、改革開放が始まった1970年代後半の37%に比べて極めて低くなった(また、それによってGDPが上昇した)のも、こうした大規模な農地買い上げ政策があった事が原因の一つと考えられます。
 市場価格よりもうんと安い価格で大量に農地を買い上げてしまうと言う方法は短期的には農夫達にとっての不公平を生んでいる様にも見えますが、長期的には彼らの職業を都市部のより生産性の高いものに変え、中国全体としての生産性も上昇させると言う国家本来の目標を達成できていると言えるかもしれません。

政府が農夫を騙す事は問題無い?

 中国政府は結局、土地の安価な買い上げで農夫達から市場価格に応じた大金を騙し取った事になるのですが、当の政府はこれを問題視はしていないようです。政府が心配していたのは、もし農夫達が完全な財産権(土地所有権を含む)を持ち、自由に彼らの土地を売却できるとすると、目の鋭い不動産投機家達に騙され、損益を被る事になるかもしれない、という事でした。
 つまり政府は、農夫達が政府関連の購入者によって公正な土地の値段を騙し取られる事については問題ないと考えていましたが、個人の購入者が安値で農夫から土地を購入する事は違法と捉えていたのです。国が行う事であればそれは合法的であると言う、如何にも共産党一党支配の国である中国的な考え方ですね。

不平等政策が富や収入の分布に与えた影響

 こうした都市偏重型の政策によって農村と都市における富や収入格差がどれだけ広がったかを理解する為には、結局、農村と都市における不動産に関する財産権の食い違いを理解しなければならない事になります。
 都市戸籍を持つ都市部の家族は完全な財産権を持っており、上昇し続ける市場価格で自分達の不動産を売却する事が出来ます。一方の農村の家族はそれが出来ず、代りに彼らの土地を安値で都市政府や地方政府に買い上げられるだけです。従って富や収入にどんどん差がついてくるのです。
 この農村と都市における財産権の違いについてはまた次回具体的に見ていきたいと思います。

まとめ

 中国政府による大量の農地の安価な買い上げ政策によって、農夫達が本来得られる筈の利益をどれだけ大きく失っているかを具体的に数字で見てきました。これによって農夫達が総計でGDPの8%にも及ぶ額だけ損失を被っている事が分かりました。
 しかし同時に、政府がこうした一見不公平な政策を通して、農村から都市への労働人口の移動を起こし、労働者の生産性を上げる事で究極的には中国全体のGDPを上昇させようとしている事も分かりました。
 また、農夫達にとって不公平に見えるこの安価な農地買い上げ政策も、国の行っている事だからと言う理由で中国国内では正当化されている様です。
 次回は不動産に関する財産権が農村と都市でどれだけ違いうのかを具体的に見ていきます。






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