2020年10月9日金曜日

公営住宅建設計画のずさんさと相変わらずの高級住宅供給過剰




はじめに
 1998年の住宅民営化以来、中国の住宅市場は二層に分断されてしまっています。一つは高所得者向けの高級住宅の市場。もう一つは農村からの移住者や低所得者向けの手頃価格の住宅市場です。そして前者は供給過剰、後者は逆に供給不足の状態が続いてきました。
 この事を問題視し始めた中国政府は2010年頃から徐々に高級住宅の供給過剰を抑制する為に住宅購入の際の頭金やローンの利率を引き上げたり、投資用不動産の購入可能軒数に制限を設けたりと、購入規制をする様になりました。また低所得者向け住宅の供給不足の問題についても、公営住宅の建設を推進する事で解決しようとしました。しかし実際にはこうした政策は目覚ましい成果は達成できませんでした。
 今回は住宅市場二層問題を解決するための政府によるこれらの政策がどの様な結果になったのかを、その原因と共に見ていきます。

低所得者向け公営住宅の大建設計画

 中国政府は高所得者向けの高級住宅が供給過剰にある一方で低所得者向けの手頃な住宅が供給不足にあると言う問題を受けて、低所得者向けの公営住宅の大建設計画を打ち立てます。
 具体的には第12回5か年計画期間(2011年-2015年)の間に3,600万軒の公営住宅を建設する事を計画に盛り込みました。これは年間にして700万軒という膨大な数です。中国における当時の年間の全住宅竣工数が1,000万軒だったので、非常に野心的な目標だった事が分かります。

高級住宅の購入規制の解除

 冒頭で述べた様に、中国政府は2010年ごろから住宅購入時の頭金やローン利率の引き上げ、また購入可能物件数の制限など、高級住宅の供給過剰を無くす為にさまざまな購入規制を設けましたが、これは果たしてうまくいったのでしょうか?
 確かに、こうした政策によって住宅価格の上昇ペースは和らぎました。これによって低所得者でも手の届く住宅が増えた事も成果として認められるでしょう。住宅価格の上昇が抑制され、低所得者でも住宅を選ぶ選択肢が広がったという事ですね。
 しかし、これによって当初意図していたような高級住宅の供給過剰を減らす効果を得る事は出来ませんでした。そして2015年初頭までには、再び購入規制は実質全て解除されてしまいます。と言うのも当時、売れ残りのアパートなどの物件が中国国内には大量に存在し、これが原因で市場の住宅部門はそれらの売れ残り物件を早く売却する様に都市政府や不動産業界などから強い圧力をかけられていたのです。その為住宅市場は再び頭金やローン利率を引き下げ、高所得者が簡単に高級住宅を購入できる状態に戻ってしまったのです。

公営住宅建設計画の失敗

 住宅市場の二層問題の第二の対策として行われた公営住宅の建設計画についてはどの様な成果が得られたのでしょうか?
 結論として言えば、ほとんどうまく行かなかった様です。と言うのも、この公営住宅建設計画は、政府からの命令ではあるものの、それを実行する為の具体的な仕組みが完全に抜け落ちていたからです。また建設の為の融資も不十分でした。
 地方政府は彼らがノルマとして何件公営住宅を建てなければならないかを中央から命令されましたが、具体的にどの様にそれを実行すればいいのかについてのアドバイスが殆ど無かった為、動きようがありませんでした。そして少なくとも計画の初期は財政支援も最小限に留められていました。低所得者向けの住宅を大量に作ろうと言う掛け声だけは中央政府からあった様ですが、そうは言っても本格的な財政支援はなされず、その方法も不完全だったため建設計画は迷走したのです。

当初の目標からの大きな逸脱を生んだ公営住宅建設計画

 公営住宅建設計画は具体的に都市にどの様な変化をもたらしたのか見ていきましょう。結果は低所得者達が安心して住める大規模な公営住宅があちこちに林立する、と言う当初の目標からは大きく逸脱したものでした。
 上海の様な豊かな都市ではこの建設計画は結局、スラム化した住宅を高所得者向けの近代的な物件としてリフォームして格上げすると言う計画に様変わりしてしまいました。この上海の例は、崩れかかった住宅を低価格でリフォームできるという事を考慮すればある意味賢い計画だと言えます。
 しかし、その様なリフォーム物件を購入できるのは低所得者ではなくやはり高所得者であり、こうした政策が低所得者や移住者が都市部に中々住めないという問題をさらに深刻なものにしているのも事実です。

まとめ

 高級住宅の購入規制や公営住宅の大建設計画によって、中国政府は中国国内の住宅市場が二層(供給過剰の高級住宅層と供給不足の手頃住宅層)に分かれてしまっていると言う住宅市場における巨大な問題を解決しようとしました。
 しかし実際には売れ残りの物件を早く売却しなければならないと言う都市政府や不動産業界からの圧力に負け、2015年初頭までに購入規制は解除されてしまいます。
 また低所得者向けの公営住宅建設計画についても、中央政府からの命令(掛け声)はあったものの、財源不足や方法論の不足によって計画は迷走し、実質は都市政府や地方政府の都合のいい様に計画の形が変わってしまっていました。この計画によって、上海などの大都市ではリフォームによって都市部の高所得の家庭が喜ぶような高級住宅しか作られないケースが目立ったのです。






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