2020年10月7日水曜日

農村における土地使用権の改善と政府による相変わらずの都市偏重の方針




はじめに

 中国では胡錦濤政権になってから、農村部の生活は随分と近代化されました。ベーシックインカムの普及や健康保険、年金の導入、さらに農産物の政府買い上げ価格の引き上げを通しての農夫の収入の増加が行われたのです。
 しかし、こうした改革を経てもまだ都市と農村では収入に3倍近い差があり、都市と農村における格差は完全には是正されていません。
 その原因となっているのが農村における農夫の土地に関する権利が殆ど認められていない事でした。せっかく耕作してきた土地を村当局に取り上げられ、別の農夫の家族の下へ配置転換されてしまう事が頻繁に起きていたのです。これでは農夫達は安心して自分達の農地を使用することが出来ません。
 そこで中国政府は2000年代に入ってから農夫達の土地使用権を盤石なものにしようと様々な法律の改定を行ってきました。
 今回はこうした農夫の土地使用権に関する法改正によって農夫達の農業がどの様に改善されていったか、そして同時に未だ彼らに認められない土地所有権の問題などについて見ていきます。

法律改正と農夫の土地使用権証明書の普及

 2004年に、村当局が勝手に農地の配置転換を行ったり出来ない様に法律が改正されました。そしてその後も農夫達の財産権の一部として正式に土地使用権が認められるようになったのです。こうして農夫達はきちんとした契約書に基づいて安定して30年は自分達の土地を耕作できるようになりました。
 ただし、改正された法律の厳格さはものによって異なっていたと言われています。法律がきちんと守られている事もあれば、あまり順守されていない法律もあったという事です。
 しかし、貧困世帯の土地権を守る為に活動している非営利組織であるランドイーサ(Landesa)による2010年の調査によると、こうした法律の改正によって今では中国の農夫家族の60%あまりが土地権に関する証明書を所有し、約50%が正式な契約書を持っているという事です。
 まだ半数ほどにしか証明書や契約書がいきわたっていない事からも、法律の厳格さという意味で完ぺきとは言えないことが分かります。さらに、証明書や契約書を持っている農夫達はあくまで土地の使用権がきちんと法的に認められているだけであり、土地の所有権についてはまだ持っていません。これについては今後の課題として議論され、また時期を見て徐々に改善されていく事でしょう。

安定した土地使用権が生んだ安心と投資への意欲

 1990年代から2000年代を通してのこうした法改正によって以前に比べてより安心して長期間自分達の土地を耕作できるようになった農夫達は自分達の農業に長期的な展望を持てるようになりました。
 彼らは例えば常設の温室(ビニルハウス)や先進的な灌漑システムなどを農地に導入するなどと言った、生産性を上げる為の高価な投資をより積極的に行うようになったのです。
 さらに、村当局の目を気にせず、比較的安定した土地の使用が可能になった事から、農業関連事業も興るようになります。具体的に言えば、ある農業事業者が自分達の耕作地に隣接する耕作用小区画の集まりをまた借り(リース)し、集まった広大な耕作用地を用いて大規模な機械化された農業を開発し始めるようになったのです。

相変わらず認められない土地所有権

 過去20年程の法改正で農夫達の土地権は強化され、比較的多くの農夫家族に認められるようになりましたが、中国政府は同時に彼ら農夫達が土地権によって大きな利益を得る様な事を相変わらず妨げようとしていました。政府は農夫達の持つ土地権の金銭的な価値が可能な限り低くなるように必死に動いていたのです。相変わらず都市に比べて農村は貧しくある様に政府が働いていたという事です。政府が具体的にどのように働いていたのか見ていきましょう。
 まず一つには、中国政府は農村の土地そのものの所有権は個人ではなく、相変わらず集団に属すると主張し続けました。政府は農夫個人の土地所有権を認めなかったのです。それはつまり、個々の農夫が彼らの土地を売ったり、或いは土地を担保にしてお金を借りたりする権利が無いという事です。もしその農村のある区画が都市化され、それにつれて農地の地価が上昇しても、それを個人で自由に売却することが出来ないので、農夫達には全く利益はありません。だから農夫達は相変わらず農業や地元の小規模企業での仕事を通してしか収入を得る事が出来ないのです。

都市政府による農地の転売

 中国の中央政府が農夫達が土地権を利用して大きな利益を得ない様に他にどんな政策をとっていたかを見ていきましょう。
 中央政府は、農夫達が彼らの土地を自由に売買できない事をいい事に、中国の都市政府が近接する農村の広大な農地を手頃な価格で手に入れ、それを大きな利幅で不動産開発業者に転売する習慣を許容していました。まず低価格の農地を大量に購入し、暫くしてそれらの土地が都市化され開発の見通しが立った後で不動産開発業者に高価格で売却する事で、莫大な利益を得ることが出来ます。しかしこれを行えるのは農夫ではなく、それらの土地を自由に売買する権利を持つ都市政府だったのです。
 一方の農夫には相変わらず土地所有権が認められていないので、上記の様な土地の転売など出来ません。こうして農村の都市化に伴う地価の上昇や土地の開発による利益も実質その全てが農夫では無く、都市政府や都市不動産開発業者の手に渡っていたのです。また都市不動産開発業者は彼らが都市部に建てた住宅やオフィスからも大きな利益を得ていたのです。
 都市部でも農村でも不動産事業によって利益を得ることが出来るのは、農夫では無く、結局都市の特権階級だったのです。

まとめ

 1990年代から2000年代を通じての農夫の土地権に関する法改正によって、農夫達は比較的安心して土地を耕作できるようになり、農業はより効率的に行われるようになりました。
 しかしその一方で、農夫達の農地所有権は相変わらず認められず、不動産の売買によって大きな利益を得る機会は彼らに与えられないままです。代わりにそうした権利を持つ都市政府が手頃な低価格で農地を買い上げ、農村の都市化に伴い地価が上昇し、開発の見通しが立った後、高価格で都市の不動産開発業者に売却する事で大きな利益を得ると言う習慣が続いてきました。
 結局、農村の地価の上昇や不動産開発によって利益を手にするのは都市部の政府や不動産開発業者だったのです。






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