2020年10月17日土曜日

農村と都市での不動産権の違い




はじめに

 中国では1978年末の改革開放以降も農村と都市との間の大きな経済的格差が問題とされてきました。
 農村の貧しさを改善する為に趙紫陽と万里は1980年代に農村改革を行います。
 しかしその後1990年代に江沢民政権になると都市重点の改革が進められ、農村経済は停滞する事になります。
 その後2000年代になって胡錦濤政権になると再び農村の改革が進み、健康保険や年金、ベーシックインカムなどの社会サービスが農村に導入され、農村での生活が大きく改善されるようになります。
 しかしこれでも都市と農村の間の格差は完全には無くなりませんでした。その原因になっているのが農村の農夫達の土地に関する権利の制限でした。1990年代から2000年代にかけて農夫の土地使用権に関しては随分と改善されてきましたが、未だに土地所有権を含めた財産権が農夫達には与えられておらず、農村家族は都市部家族の様に自分達の不動産を自由市場価格で自由に売却する事が出来ません。その代わりに不動産開発目的で都市政府に不当に安い価格で大量の土地を買い上げられてしまう習慣が後を絶えないのです。
 今回はこの不動産に関する権利の農村と都市での大きな違いが具体的にどのようなものなのかを見ていきます。

中国で住宅を購入するとはどういうことなのか?

 中国では都市と農村で不動産の所有の仕方はどの様に異なるのでしょうか?
 農村の土地は村に存在する集団によって所有されています。一方の都市部の土地は国が所有しています。不動産は個人によっては所有されていない、と言う点では農村でも都市でも共通しているんですね。
 だから、例え都市部で住宅を購入する場合でも、これはその土地と住居をまるまる自分のものにしている訳ではなく、あくまでも一般的に70年と言う長期の借家権を買っているだけなのです。一方の農村では農夫達は自分達の土地に関して30年の使用権を持っているだけです。
 こうして見ると期間の長さに違いはあるものの、農村と都市とで土地の権利にそれ程大きな違いは無いようにも見えます。しかし実際にはとてつもなく大きな差があるのです。以下では不動産権に関するこの差について具体的に見ていきます。

農夫は土地を売る権利を持っていない

 農村の土地でも、例えばそこに新たに建築物(マンション、アパートなど)を建てれば、土地の価値は上昇するでしょう。この様に、農村の土地をより価値の高い用途の土地に変換する事を見込んで不動産開発業者達は高値でそうした農村の土地を購入しようとするかもしれません。しかしそれらの土地の名目上の所有者である当の農夫達はそうした不動産開発業者をはじめとする土地購入希望者にその土地を売却する権利を持っていません。
 彼ら農夫が出来る事と言えば、耕作権をまた貸しする事、つまり自分達の耕作してきた土地を別の農夫に貸して耕作してもらう事だけなのです。農地は結局農地としての利用価値しかないという事です。そしてもし都市政府がその農地を不動産開発目的で購入する事になっても、不当に安い価格で買い上げられてしまうのです。

都市部の住宅所有者は市場価格で不動産を売却できる

 一方の都市部の住宅所有者には、完全な財産権が与えられており、自由に不動産を売買できます。彼らは自分達の不動産を個人事業者にでも都市政府にでも誰にでも自由に売却する事が出来ます。しかもその売却価格は市場が耐え得る価格ならいくらでもいいのです。
 近年、中国都市部へは増々多くの人が移動しています。それにつれて都市不動産であればどんな物件でも一定不変に価格は上昇しますが、都市住宅所有者は完全に自由にこの価格上昇について把握する事が出来ます。そして中国では、資本利得(不動産などの購入と売却の差額によって生じる利益)へは税金が課せられていません。その為、価格上昇後の住宅の売却によって得られる利益の全ては彼ら都市住宅所有者たちのポケットにそのまま入る事になるのです。
 この事からも、都市住宅所有者の不動産に関する権利が農村の農夫達の場合とは大きく異なる事が分かります。都市住宅所有者もその住宅を法的には所有している訳では無いのですが、実際には彼らは彼らの不動産を市場価格で誰にでも自由に売却でき、それによって生じる利益も100%自分のものにすることが出来るので、日本やアメリカ合衆国などの自由主義国における不動産所有者と実質変わらない権利を持っている事になります。

都市居住者が購入する不動産の数には制限が無い

 農村に住む農夫に与えられた土地権とは、単に彼らの一切れの土地を個人的に耕作する権利です。或いは別の農夫に自分達の耕作地をまた貸しする事ならできます。しかし市場価格で自由に売却する事は出来ません。
 一方の都市居住者は、彼の経済力が許す範囲でいくらでも多くの住宅を購入することが出来ます。そして市場原理によって価格が上がった後にそれらを売却できる事は勿論、他にも例えば、購入した住宅を複数の誰かに貸し出し、賃貸収入を得る事も出来ます。或いは抵当金の担保物件としてそれら住宅を利用し、得られた抵当金を使って小規模な事業に融資し大きなリターンを得る事も出来ます。
 この様に都市居住者であれば購入できる不動産件数に制限が無いので、利益を目的とした多種多様な不動産の利用が出来るのです。

まとめ

 農村と都市での不動産に関する権利の違いを見てきました。まず、中国では農村でも都市でも個人はその不動産を所有は出来ず、農村の場合は集団によって、都市の場合は国によって所有されています。
 しかし、農夫達が自分達の土地を自由な価格で売却できない一方で、都市住宅所有者達は市場価格で誰にでも彼らの不動産を売却できます。そしてそれによる利益は非課税でそのまま彼ら都市住宅所有者のものになるのです。また、今では都市居住者達の住宅購入件数には制限もありません。だからいくらでも不動産を購入し、賃貸や抵当金の担保など、様々な目的でそれらを利用できるのです。
 ここに農村と都市での不動産権の大きな差があり、これが農村と都市での富や収入の大きな格差の原因となっているのです。






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