2020年10月26日月曜日

集団所有の不可侵と耕作地総面積の下限から見る農村土地権問題




はじめに

 中国の農村と都市では1978年末の改革開放以来も富と収入の格差が問題となってきました。この格差の大きな原因となってきたのが農夫達の土地に関する権利の厳しい制限です。彼らは土地をある一定期間使用は出来ても、それを所有したり、不動産として自由に土地を売買したりは出来ないのです。
 この問題を是正するためにこれまでいくつかの政策が行われてきました。例えば1990年代には農夫達による農地の標準使用期間が30年にまで延長されました。また2000年代には村当局による農夫達の農地の勝手な配置転換(他の農夫にその農地の使用権を移管してしまう事)が法律で禁止されました。
 この様に農夫の土地使用権に関する改善はいくらかあったものの、住宅を自由に売買する事で近年莫大な利益を得てきた都市部の家族とは違い、相変わらず農村の家族は土地所有権を持っておらず、土地を売ったり抵当に入れたりする事が出来ません。また、都市政府が安価に農村の土地を買い上げ、高値で都市部の不動産開発業者に売却すると言う様な習慣も続いており、都市が農村を搾取すると言う構図は相変わらず無くなっていないのです。
 今回は農村の土地権がどの様な理由で中々改善されないのかを中国独自の政治的理由や食料供給などの観点から見ていきます。

神聖視されている農村地の集団所有

 冒頭で説明した様に、農村の土地の保有権には厳しい制限が設けられており、なかなか改革が進んでいません。農夫達は土地を使用は出来ますが、それを売ったり抵当に入れたりと言う財産としての利用が権利として認められていないのです。
 農村地の保有権に関する改革が進まない理由には主に二つあります。一つ目の理由は農村地の集団所有が侵す事の出来ない神聖なものであるとされている事です。
 中国では共産党と国民党との内戦後からその勝利者である共産党による強く制限的な戸籍制度が農村部に導入されます。そしてそれ以降、農夫達の耕作する土地は個人ではなく厳格に集団で管理・所有する様に定められてきたのです。これが2020年になった今でも神聖視されているのです。実際に、この農村における土地の集団所有の原則は2013年の三中全会における改革決定文書や、それに続く農村政策声明書によって再度公に断言されました。

土地権問題の単純かつ最良の解決策とは何か?

 土地や不動産に関するいわゆる個人的財産権とは、中国都市部の住宅所有者達がこの20年間享受してきたものであり、また中国以外の日本、韓国などの東アジアの国々の農夫達のほとんどが何十年も持ち続けてきたものです。つまり中国の農夫だけが自分達の土地を自由に財産として活用できていないのです。
 ところが、中国における農地の集団所有の神聖視は農夫達にこの個人的財産権を与える事を論外のものとして政府の議題から外してきました。農地問題の解決策として最も単純で最良のものは明らかに農夫に中国都市部や他の国と同様の個人的財産権を与える事です。しかし、集団所有が絶対視されそれが前提になってしまっているのが今の中国なのです。

中国における耕作地面積のレッドライン

 この項では中国農村における土地保有権の改革が進まない二つ目の理由を説明します。それはつまり中国国内の耕作地面積にそれ以下に下がってはいけない一線、即ちレッドラインが設けられている事です。
 中国では2006年以降、中国における耕作地面積の総量が1億2000万ヘクタール以下になってはならない、という事が宣言され、そのルールが遵守されてきました。 近年、都市化が進んできた中国ですが、その一方で農業生産高をある程度きちんと維持し、食料を時給出来なければ一つの国として成り立たないと言う考えが中央政府には恐らくあるのでしょう。その為、個人が農作物を栽培する為の農地を不動産開発向けに気軽に転売できない様にあえて集団所有させているのです。

都市化に伴う耕作地面積の減少への対策

 過去20年間、特に住宅民営化が行われてから、農村の土地は急速に都市向けの土地として開発されてきました。その為、中国における総耕作地面積はこのレッドラインより僅かに上と言う状況です。
 そこで、これがレッドラインを下回らない様に、もし都市部の土地(開発済みの土地)が少しでも増加したらそれを相殺する様に農村の荒地や建設地を耕して耕作用地に戻す必要があるのです。
 こうしたレッドラインの圧力が、農村の土地に関する権利を非常に制限的なものにしているのです。このレッドラインが中国の食糧自給を保障するためのものである事を考えれば、農村の土地権が改革されない事はやむを得ないのかもしれません。

まとめ

 中国農村の土地権が中々改革されない理由を主に二つ見てきました。
 まず一つ目の理由は、農村における土地についてはその集団所有が神聖視されており、これが中央政府の会議の改革決定文書や政策声明書にも明記されている事でした。
 そして理由の二つ目は中国国内の耕作地総面積に下限(レッドライン)が設けられている事でした。中国では耕作地総面積がこのレッドラインを下回らない様に、農地の不動産開発向けの転売などが集団所有などによって妨げられていたのでした。そしてこのレッドラインは中国国内の農業による食糧自給を保障する為の物でもありました。






0 件のコメント:

コメントを投稿

はじめに 1.古い旅客鉄道網の閉鎖 2.儲かる路線と儲からない路線 3.高速旅客鉄道建設に渦巻く汚職 4.中国のインフラ建設汚職は如何にして防ぐ事が出来たか まとめ はじめに  中国のインフラ建設はアジア通貨危機が起きた1997年以降、加速度的に進められてきました。金融危機に対す...